森田さん(仮名・40代)のドライバー歴はまだ2年にも満たない。新型コロナウイルスが猛威を振るうまでは、平均40万円以上の月収を稼いでいた。この数字は業界平均よりも多いだろう。
「やる気と根性だけでは、限界があると思いました。そこで港区に限って、時間帯や曜日で人が流れやすいポイントを2年間で徹底的に分析した」と森田さんはいう。
現在は六本木を拠点とし、コロナ禍でもフル出勤する。だが4月や5月の収入は激減し10万円を切っているそうだ。本音は休業補償を受けたいというが、40代の森田さんのような“若い”ドライバーから現場を埋められていく。
「コロナ休業で勉強できる時間がとれると思いましたが、実際はそうではないですね」
元・外資エンジニアの弁護士志望ドライバー
森田さんは2年前に京都府の有名法科大学院を修了した。現在は、司法試験を受験するための準備を進めながらドライバーとして生計を立てている。
タクシー業界に入る以前は、外資系企業を中心にIT業界を転々するなど、エンジニアとしてキャリアを重ねてきた。
直近の職歴では、アメリカに本社を置く外資系PCメーカーのマネージャーまで登りつめた。転機が訪れたのは、5年前。
外資系特有のリストラで日本法人の人員削減を本社から迫られたことだ。慣れ親しんだ同僚に対して解雇を言い渡す立場だった森田さんは心身ともに憔悴しきってしまった。
「リストラを通告することは、1人の人生を激変させてしまう。家族がいる仲間に対して、『あなたはクビです』と話すわけですから。ドライな部分は充分に理解していたはずでしたが、私自身が耐えうる強さを持ち合わせていなかった。それで心のバランスが崩れてしまって……。
私は独身でしたから、それなら私が辞めます、といって早期退職制度を利用して退職しました。その退職金を元手に、法科大学院に入学しました。将来への不安ですか? むしろ、これでやっとやりたいことができるという開放感が勝りましたね」
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