弁護士を目指すというのも、ある種突発的なものだった。行動には一貫性がないようにも感じるが、理由をこう話す。
「他の人から見れば、あちこちと移り気に思われるでしょう。ただ、私の根底には強い学歴コンプレックスがあります。高卒だったことで、所得は高くても正社員になれなかった。それでも、外資系大手で正社員のマネージャーとして評価されたことで世間の評価を克服できた。
弁護士を志したのも、合格して見返してやりたいという部分があるんでしょうね。司法試験も制度が代わり、最近では合格率も上がっている。決して届かない目標ではない。今は仕事の合間や休日に勉強し、最短での合格を目指しています」
ドライバーとしての生活はどうか。思い描いていたタクシードライバー像との乖離は少なかった、と森田さんは話す。その一方で外国人観光客へのインフラや、旧態依然な業界の仕組みには疑問を呈する。
「実際に働いてみると、意外と嫌な思いをしたことがなくて。車の中という限られた特別な空間で、お客さんとの会話は粋なものです。こんな時代でも温かい方はいらっしゃる。その反面、日本のタクシー業界は外国人に対して冷たいとは感じます。本当に満足されるサービスは何か、と試行錯誤しています」
本業タクシー、副業弁護士
新型コロナウイルスの感染拡大で、今年は5月に予定されていた司法試験が延期となった。だが、8月での実施が決定し、すでに願書を提出済みだという。現在も仕事の合間を縫い、参考書に向き合う時間は確保している。取材の最後に、司法試験に合格した後の人生について尋ねてみた。
「司法試験に合格しても、私はタクシードライバーを辞めません。この仕事が好きなんです。ドライバーをやりながら、細々と弁護士として困っている方を助けられたらいい。おそらく日本初であろう本業タクシー、副業弁護士。そんなドライバーがいても面白いでしょう。そして、実現すれば業界のイメージも変わるのでは、とも思っています」
異色の“弁護士ドライバー”は、早ければ今年の秋に誕生するかもしれない。
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