若者に日本の歴史をどう教えるべきか 山折哲雄×安西祐一郎(その3)

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普通の高校生の人生が心配

安西:今、大学進学を希望している高校生が1学年約60万人います。そのうち、いわゆる学力中間層と呼ばれている高校生が40万人近くいますが、こうした高校生の学習時間が、この15年で半分に減っているというデータがあります。正確に言いますと、1990年と2006年で比較したときに、1日の勉強時間が、120分ぐらいから60分ぐらいに減っている。この学習時間というのは、高校での授業時間を除き、予備校や塾に通っている時間を含んでの数字です。

安西祐一郎(あんざい・ゆういちろう)
日本学術振興会理事長
1946年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了。カーネギーメロン大学人文社会科学部客員助教授、北海道大学文学部助教授を経て、慶應義塾大学理工学部教授。2001~09年慶應義塾長。2011年より現職。専攻は認知科学、情報科学。

このデータの背景にあるのは、大学全入時代になって、いわゆる中間層といわれる高校生が、大学入試に力を入れなくてもよくなったということだと考えられます。どこかの大学に入れればいい、ということであれば、それほど入試の勉強をしなくてもよくなった。だから学習時間が減ったということです。

それとは別に職業高校、工業高校、商業高校等に通っている高校生がいます。彼らには目標をもって、一生懸命勉強している高校生が多いのですね。一方、普通高校の生徒で適当に大学に行けばいい、親もとにかく大学に行ってほしい家庭の子どもは、実は目標がない。自分で何かしたいという気持ちがなかなかもてない、何をしたらいいかわからないという生徒が多いわけです。

サイレントマジョリティというのは、人数も多い、とても大事な人たちなんですね。彼らが日本のいろいろな地域で生活をし、地域社会を盛り立てて、その結果として、日本国が将来にわたってずっと続いていってもらいたい。ですから、その学力中間層の子たちがいったいどういう人生を歩むかが気になっています。私は高等学校こそ、本当に血肉になる教養の基本を創る上で、とても大事な時期だと思います。

国側も中学までは義務教育ですので目が行っていますし、大学問題は大学問題で経済界からもいろいろ言われるので注目されますが、高校というのはどうしても抜け落ちてしまう。普通高校問題というのはあんまり知られていないとも思いますが、ゆるがせにできない。

山折:それは中間労働層の問題とも関連しますね。高度経済成長期には、会社、家族、そして地域社会があり、いろんなマナーを教えたり知恵を授けたり人間との付き合い方を教えたり、共同生活の在り方を教えたりしていました。学校ではあんまり教えなかったことを会社で覚えていくという機能があったわけです。会社がそういう機能を失った時に、中間労働層がどうなっていくかという問題とかかわりますよね。

安西:そうですね。今は会社に入って3年で3分の1が辞める時代です。若い人にはなんとしても幸せになってもらいたい。でも、どうも幸せには見えない。

世界がグローバル化というよりも多極化する中で、アメリカがありEUがあり中国も出てきて、るいはロシア、インド、ブラジル、その他の諸国が競合して、世界のパワーゲームがある意味東西冷戦当時よりも不安定になっているわけです。これからの若者は、そういう中で生きていかざるを得ない。

インターネットなどを通じてかなり情報が早く入るので、地域経済も東京を経ないで、直接影響を受けるようになりました。地域で生きていくにしても、いろいろな影響を世界の動向から受けるようになっています。そういうときにいったい、今申し上げたような高校生、大学生たちがどういう人生を歩んでいくのかというのが、とても気になるのです。余計な心配なんですけれど。

山折:いや、余計な心配ではないと思います。これは大問題ですね。何かいいアイディアはありませんか。

安西:なんとかしたい。それの一番根本に日本人としての教養があるということです。若い世代が、日本人の教養を少しでも血肉にできるように、どんな手だてを打ったらいいのか。それをぜひ山折先生にお聞きしたい。

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