若者に日本の歴史をどう教えるべきか 山折哲雄×安西祐一郎(その3)

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歴史を語れない日本の学生

安西:確かに我々は、イザナギ、イザナミの話と、神武天皇以降の天皇をまったく別のこととしてとらえていますね。

山折:これも神話学者はほとんど言っていませんが、実は、イザナギは隠れる神で神話世界では死ぬことがない。ところが配偶女神のイザナミの方は火の神を生んで死ぬ、そして、熊野の地に葬られている。死ぬ神なんです。イザナミノミコトはカグツチの神という火の神を産んで、その生殖器を焼かれてそれで死ぬわけです。死んで地上の熊野の地に葬られて、そこで夫婦別離の悲劇が生まれた。それはいったいなぜかと言うと、また難しい問題になりますが、つまりイザナギ、イザナミというのは、神話世界と歴史時代をつなぐ重要な神だと私は思っています。

安西:なるほど。今、日中韓の大学同士でお互いに単位を交換しながら、それぞれの大学の学生が、何カ月かずつ日中韓の大学に滞在して学ぶプログラムがあります。キャンパスアジアという名称で呼んでいて、日中韓の政府間の合意で3年続けていますが、私は日本側のまとめ役をやっています。

その大学生同士で話をするときに、中韓の学生のほうが日本の歴史について彼らが自分の国で聞いた形で語る、あるいは意見を言う。それに対して日本の学生が答えられないことがあるといいます。先生が今言われた話を、もし日本の学生が知っていたら、どういう話をするかなあと考えてしまいました。

山折:面白い話になるでしょうね。

実は3年ほど前に、日中韓の学生交流の組織のワークショップに招かれて、日中韓の大学生100人ぐらいのクラスで話をしました。そのときに特に韓国の学生が、自分は日本という国は嫌いだ、でも日本人は嫌いではない、というようなことを言っていたのが、ひとつの驚きでした。

もう一つの驚きは、私が「韓国では“恨(ハン)五百年”と言うでしょう。500年間恨みつらみが募ってきてそれが反日感情と結びついている。これはなかなか乗り越えることできない問題ではないか」と言ったら、韓国の学生たちがみな「そうだ」と言うんです。だけど日本の学生たちのことは好きだと。それに対して日本人の学生はノーコメントでした。

安西:それは、先ほど申し上げたのと同じような話です。

山折:だから今、日中、日韓の問題を政治レベルで扱うには、“恨五百年”というような問題を含めて、もう少し腰を落ちつけて考えていかないといけないんですよね。

(構成:佐々木紀彦、撮影:今井康一)

※ 続きは4月15日(火)に掲載します。

山折 哲雄 こころを育む総合フォーラム座長
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