コロナ後の「国家と自由と資本主義」の行き先 「安定性と効率性の二律背反」が導く大衆心理

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なぜ効率性と安定性は二律背反するのだろう。岩井氏は、資本主義が「投機」に基づくシステムだからだと指摘する。

フリードマンは、市場では非合理的な売り買いをする投機家は淘汰され、合理的な投機家だけが生き残るから、投機は市場を安定化するという主張を展開した。

岩井氏は、この主張について、ケインズが提唱した理論によって根源から批判されると言う。有名な「美人コンテスト」の理論だ。

美人コンテストを開催し、「最多得票数の美人に投票した人には、賞金を与える」という条件をつける。すると人々は、賞金欲しさに「自分の思う美人」ではなく、「みんなが美人と思っている美人は誰か」を探り合うようになるのだ。

噂に左右される者、予想を立てる者。やがてうそでも無根拠でもよくなり、「勝ち馬に乗りたい」という大衆心理が雪だるま式に膨張する。自分の好みではない美人が選ばれたとしても、誰も止められない。

絶対的な価値や、自分の信じる価値よりも、相対的で不確かな「みんながそう言うから、そうであるもの」を追い求める――いわば「欲望」の無限増殖だ。この不安定極まりない状態が「投機」の本質なのである。ケインズの洞察は、私たちに深く突き刺さるものでもあるだろう。

行き着く先は「ハイパーインフレーション」

岩井氏はさらに、貨幣も「投機」であると説く。みんながお金というものの価値を、将来にわたってその価値であり続けると期待することで、お金のやり取りが行われている以上、お金は純粋な「投機」にほかならず、誰もが潜在的には「投機」活動を行っているというのだ。

お金にも「バブル」がある。お金の価値が上がると、物価が下がる。つまりデフレの状態だ。人々はモノを買わずに貯め込み、不況になる。それによってますますデフレが進むと、恐慌となる。

お金の「パニック」が起きて価値が下がり、物価が上がることもある。インフレだ。お金を持ち続けていても買えるモノが減るから、人々はどんどん使う。

みんなが「もっと物価が上がるのでは」と予想すると、さらにお金を使うため、ますます物価が跳ね上がって、行き着く先は「ハイパーインフレーション」だ。

相場の流れを読んで売り買いするプロの投機家と同じ行動が、実はこうして市井の人々によっても行われているのだ。

岩井氏はこれらの考察から「貨幣を基礎とする資本主義社会とは、その貨幣が潜在的にはもっとも純粋な投機対象であることによって、本質的に不安定な社会でもある」と述べる。

手元にあるお金について深く知ることが、資本主義社会の本質を知ることになると気づかされ、目から鱗が落ちる思いだ。

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