「鬼滅の刃」と「100ワニ」超ヒット漫画の共通点 「100日後に死ぬワニ」が超大ヒットした理由

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この「追いつくことができる」というのは昨年から今年にかけて爆発的ヒットを記録している『鬼滅の刃』でも話題になったキーワードだ。

画像:「鬼滅の刃」ポータルサイトhttps://kimetsu.com/より

『鬼滅の刃』はアニメ放送スタート時点以上に、神回と評される第19話など放送中のエピソードで大きな盛り上がりがあった。従来のようにテレビ放送のみであれば、中盤で盛り上がったとしてもそれまで見ていなかった視聴者は、追いつくことが難しい。

しかし、NetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプションが浸透し始めている現在、配信サービスに加入していれば、後追いで第1話から追いつくことも容易にできる。サブスクがあったことで、中盤の盛り上がりが新規視聴者を呼び、アニメでハマって原作単行本を購入する読者も増やしていったというわけだ。タイムラグがあっても、それを埋め合わせることができるというのは、これも従来の紙の雑誌などではなかなかできないことだった。

また、『100日後に死ぬワニ』はクライマックスのわかりやすさという点でもよくできている。

ワニのヒット以降、『100日後に○○する』という形はさまざまなフォロワーを生んでいる。目にしただけでも「付き合う」「結婚する」といった作品を確認している。

Twitter「100日後に結婚する二人 1日目」(画像:https://twitter.com/hatakenjiro/status/1241005504609976321より)

そうした作品は、当然ワニとは違うものなので、同じ評価軸でのみ考えるべきではないが、クライマックスに向かう力という点ではやはりワニの秀逸さが際立つ。

「付き合う」や「結婚する」という物語は、典型的な「物語」である。

つまり、始まりから終わりに向かって因果で結ばれている。

そして、交際や結婚は突然発生しないので、必然的にその途中にいくつかのクライマックスが現れることになる。

場合によっては、そうした中盤の展開が100日目以上に物語のピークになるかもしれない。

『100日後に死ぬワニ』が生んだ新潮流

一方『100日後に死ぬワニ』は、先に触れたようにドラマ性のない(あるいは低い)日常を描いており、それが作品の鮮烈さをつくっている。そんな物語で、唯一ハッキリわかっている、絶対のクライマックスが100日目なのだ。

極端な言い方をすれば、多少飛ばし読みしても、100日目という究極のクライマックスさえ読めば、それなりに乗ることができる。このありとあらゆることが「100日後」という日に集約されていく構造は、100日間という絶妙な期間設定と相まって極めて大きなライブ感と盛り上がりを醸成していった。物語の発想や内容が優れていたことはもちろんだが、Twitter連載という形だからこその構造が画期的だったことも、桁違いの話題を呼んだ理由といえるだろう。

完結後の騒動によってあまり語られることがなくなってしまったが、『100日後に死ぬワニ』がTwitter連載マンガという形式の新しいモデルケースを提示したのは間違いない。

従来の雑誌連載はもちろん、「○○が○○する話」といった連載作の紹介パターンや、短い読み切り的作品の発表といったこれまでのTwitterにおけるバズ作品とも違う、新たなTwitterマンガの潮流が生まれる契機になったのではないだろうか。

小林 聖 ライター

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こばやし あきら / Akira Kobayashi

1981年、長野県生まれ。編集プロダクションなどを経て、2011年に独立。マンガ関連記事の執筆などを行いながら、サイト・ネルヤを立ち上げ、サイト運営、トークイベントなどを開催している。現在の年間マンガ購読数は約1000冊。

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