野村証券、ネット取引で「大幅値下げ」の勝算 まさかの信託報酬ゼロ、信用金利も引き下げ

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信用取引のメリットは、値動きが小さくてもレバレッジを効かせることで大きな利益が狙えること、下げ相場でも売りから入れることの2つある。信用取引を多用するデイトレーダー向けではネット証券各社が提供する「1日信用取引」(いわゆる日量り商い)などの料金体系のほうが有利なうえ、野村証券ではデイトレーダー向けの取引ツールを提供していない。

今回、野村が売買の都度発生する手数料を下げずに金利を引き下げたことで、長期間にわたって資金を借り入れる投資家にとっては有利な料金体系になったといえそうだ。ただ、中長期のスタンスで信用取引を行うニーズ自体がどこまであるのかは未知数だ。

投資経験層への売りにする信用取引の金利引き下げでは、手数料が高くても対面中心に豊富なアドバイスが受けられる、という野村への信頼感は維持しつつ、ネットでは価格競争力だけでなく顧客にとって使いやすい取引ツールの開発も必要だろう。

「ガリバー」ならではの戦い方

個人の営業基盤を背景に証券最大手の地位を盤石にしてきた野村だが、直近の2020年3月期の税前利益をみると、個人営業部門への依存度は約20%(営業、ホールセール、アセット・マネジメントの主要3セグメントに占める比率)。アセット・マネジメント部門やホールセール部門の利益が拡大し、相対的に個人向け営業の依存度を引き下げている。

ネット主体の証券会社では、株式の委託手数料ゼロ化に向けて競争がますます激化している。そんな中、各社にとって有力な代替収益源となりうる信用取引の金利や信託報酬を思い切って引き下げることは難しい。だが、野村のように対面営業による個人部門の収益が確保されていれば、非対面分野で多少無理をしても、収益全体への影響はそう大きくない。

2019年末に東洋経済のインタビューで、野村ホールディングスの永井浩二社長は「われわれは対面分野ではチャンピオンだが、非対面ではチャレンジャー」と語っていた。それを具体化したのが、今回の信用取引の金利引き下げや信託報酬ゼロの投信発売だといえる。

7年ぶりの社長交代で2020年4月に新社長に就任する奥田健太郎氏は、非対面でのさらなるチャレンジをどう推し進めるのか。ガリバーの次なる一手にほかの証券会社が神経をとがらせることになりそうだ。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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