「西野朗監督」タイで発揮する驚異の人心掌握術 日本をW杯でベスト16に導いた男が愛される訳

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 タイには体が大きく屈強で、ゴール前の競り合いに強いFWが何人もいるわけではない。だが、やり方次第では、そんなエースストライカーがいなくても十分に戦える。一見突飛なアイデアには、そんなメッセージが込められているかのようだった。

西野監督は試合後、「大きな賭けではあった」と胸の内を明かしつつも、「みんなが(自分の期待に)応えたプレーをしてくれた。よくやってくれた」と選手たちをたたえた。

自分たちには自分たちなりのよさがあること。そして、それを武器として生かせば、これだけの戦いができること。このイラク戦が、プレーしている選手はもちろん、見ているファンやサポーターにも、そのことを強く印象づけ、自信をもたらす試合となったことは間違いない。

持てる武器を生かした戦略を実行

近年、台頭目覚ましいベトナムもそうだが、東南アジアのサッカーファンは、概してテクニックを生かしたプレーに沸く。良しあしはともかく、それが彼らのサッカー観だ。

そんな常識の中でプレーしている選手たちに、タイの課題は守備だからと、徹底した組織的な守備を叩き込もうとしても共感を得るのは難しい。

それならば、持てる武器=スピードやテクニックを最大限有効に生かし、勝利に結び付けるにはどうすればいいか。そうした思考でチームを作るほうが前向きであり、理にかなっているのは確かだろう。

西野監督はしばしば「タイスタイル」という言葉を用い、こう語る。

「ボール(を保持すること)をしっかり生かして、試合を運ぶ。スピード感のある戦い方を追求したいなと思う。タイスタイルは、ポゼッションとスピード感にあると思うので、そこを生かした戦い方で挑んでいきたい」

なるほどオーストラリア相手でさえ完全に圧倒した第2戦、とくにその前半は、タイの持つポテンシャルを存分に感じさせた。結果的に、後半は足が止まり、逆転負けを喫することになるのだが、頭ごなしに課題を指摘するのではなく、まずは自分たちの長所を生かした戦いで挑み、そのうえであぶり出された課題を、選手たちが嫌でも気づく形で指摘する。西野監督はそんなやり方で、うまくチームを成長させているように見える。

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