「西野朗監督」タイで発揮する驚異の人心掌握術 日本をW杯でベスト16に導いた男が愛される訳

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もちろん、チームの強化はグラウンドの中だけでできるものではない。

西野監督は大会中、「選手は(持てる力を)出し切っている」と言い、「(対戦相手は)すべて強豪国だが、すばらしいチャレンジをして成長している。こういうゲームを続けていけば、必ずタイサッカーの成長はあると思います」と、選手の健闘をたたえつつも、語気を強めて「ただ、今は(こういう試合をする機会が)ないんです」とつなぎ、こう続ける。

「この(23歳以下の)世代の彼らに与えられているゲーム(の少なさ)や、強化に対すること(の課題)を、僕は強く感じている。やはり(若い選手たちに)経験値がないんです。今後、(A代表と)並行して、そういう強化をやっていかないといけない。こういう厳しいゲームをやっていけば、もっともっと成長できる選手たちだと思います」

タイをもっと強くしたいという西野監督の思い

おそらく、強化試合の機会を求めていながら、それがなかなか実現しない現状があるのだろう。いら立ちが混じった西野監督の言葉には、言い換えれば、タイをもっと強くしたいという気持ちがこもっていた。強化の責任を託されたものとして、必要な要求はタイサッカー協会へ突きつける。それを忌憚なくできるのも、外国人監督ならではのよさ、なのかもしれない。

こうした発言もまた、メディアやファンにとっては、西野監督に対する信頼を深めるものになっているのだろう。西野監督は、外国人監督だからこそ気づくことを、ピッチ内外でうまくチームに落とし込んでいるように見える。

日本代表を率いた外国人監督を振り返ってみても、過去にはいろいろなタイプの監督がいた。

日本人の長所を認め、それを最大限に引き出そうとするタイプで代表的なのは、イビチャ・オシム監督。任期途中で病に倒れたため、結果についてはほかの監督と一概に比較はできないが、最も尊敬された監督と言ってもいいだろう。

対照的に、短所の矯正に熱心だったのは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督である。日本人選手のボールの奪い合いでの弱さを指摘し、ひたすら弱点の克服を求めた。1対1の戦いを意味する「デュエル」という言葉が、ちょっとした流行語になったほどだ。

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