「西野朗監督」タイで発揮する驚異の人心掌握術 日本をW杯でベスト16に導いた男が愛される訳

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今大会でのタイの戦いぶりを見ていて、西野監督のチーム作りに特徴的だと感じるのは、「選手の長所を生かす」という点だ。

タイ人選手の体は決して大きくなく、日本人選手と比べても、むしろ小柄。しかし、その分、俊敏性に富み、ボールを扱うテクニックに優れている。西野監督の言葉を借りれば、「鋭さがあり、スピーディーで技術的にも高い」。これこそが、タイ人選手が持つ最大の武器である。

もちろん、その一方で弱点もある。

Jリーグ時代から歯に衣着せぬ物言いで、時に辛辣な表現もする西野監督は、例えば守備については、「正直、かなりレベルアップしなければいけない」とばっさり。また、「90分間のフィジカル」も課題に挙げ、オーストラリアのようなパワフルなチームとの対戦では、試合終盤での体力低下が著しいと指摘する。

しかし、だからと言って、西野監督は短所ばかりをあげつらい、上から目線で「だから勝てないんだ!」とやり込めたりはしない。

「オフェンスのタレントは非常に高いものを感じるので、攻撃でチームを作っていきたい。選手は非常にテクニカルで、ボールをつなげる技術は(アジアのトップレベルに)通用するところでもある。まずはポゼッションで自分たちがボールをコントロールしていく。そのうえで攻撃的な選手を生かしていくことは、ひとつ(チーム作りにおいて)強調しているところではある」

そう語る西野監督の言葉の裏には、「お前たちはいいものを持っている。その武器で勝負しようぜ!」と言わんばかりに、タイ人選手たちの自尊心をくすぐりながらチーム作りを進めようとする意図がうかがえる。

格上イラク相手に互角の戦いを見せた

そんな西野流のチーム作りが鮮明に表れていたのが、グループリーグ最後のイラク戦だった。

タイにとっては、勝てばもちろん、引き分けでもグループリーグ突破が決まる状況だったが、イラクは間違いなくタイより格上。簡単に引き分けられる相手ではなかった。しかし、西野監督は、連日30度を超す厳しい環境に加え、中2日での3試合目であることを考慮し、1、2戦目に出場した主力メンバーを休ませ、大幅に選手を入れ替えたのである。

しかも、そのうちチームのエースストライカーに代わって送り出したのは、本来はMFの選手。実質、FWがいないという異例のメンバー構成だった。西野監督は、“奇策”の理由をこう明かす。

「(エースストライカーの)代わりを期待するのではなく、(FWがいない)ゼロトップでもいい、と。両サイド(のMF)はスピードがあるので、(MFの選手を増やすことで)ポゼッションしながら両サイドを生かせれば、と思っていました」

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