中国人エリート女性研究者が見た競争なき日本 彼女が「日本は幸せだな」と思った理由

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中国では幼少の頃から男女を分けるような特別教育はいっさいないのだと、権は話す。「多くの女性が誰よりも前を走りたいと思っています。子どもの頃から、人間は競争社会で競争能力をつけねばならないと教えられるからです。中国では優秀者は必ず表彰されて、トップを支持する社会ですから、全員に勝ちたい気持ちが湧いてくる教育なのですよ」。

日本で子育てをした権は、「日本の子どもたちには競争がない」との感想を持つ。少子化でヒリヒリとした競争を失くした平和な日本で育つ子どもたちがこれからどうやって国家間競争で生き残っていくのか、懸念があると語る

中国人母として、日本で子育てをした権。5歳のときに日本へ連れてきた娘は、いま日本の私立薬科大学の6年生となった。

「娘を育てながら日本の教育を見て、日本は幸せだなと思いました。誰も勝ちたくない。中国は保育園から競争ですよ(笑)。ダンスの発表会なども上手な子だけを10人選ぶからと言われて、クラスの中で競争です。運動会にしても、運動神経に優れて選ばれた代表しか出ないんです。日本のような全員参加の学校行事はない。中国では生まれてからずっと競争社会なので、それを苦痛とは思わないのですよね」

激しい競争社会の弊害も

もちろん、あまりに激しい競争社会の弊害もある。競争に勝てない子どもの親は心配をし、全面的に支援する一方で、大学でも自殺件数が増えているという。「エリートの中の競争ですから、心のバランスが崩れるのですよね。中国は親の責任が重たいです。家を買ってあげるのも、教育も、結婚も、親の責任。共産主義の中で社会の落伍者にならないために、中国は一生懸命育てなければならない」。

権が日本の子育てを通して最も驚いたのは、先生の発する「普通です」という言葉で親がみな安心することだった。「日本では、普通です、問題ないです、というのがいちばんの褒め言葉ですよね。普通に健康だったらそんなに心配ないでしょう。それはのびのびと成長する環境としてはいいのですが、大きな戦いのときにどう子どものモチベーションを上げるか、責任を感じます」。

娘が日本へやってきたばかりの頃、権の両親が中国の祖父母らしく孫娘の教育を支援してくれたそうだ。祖父が電話でしっかりやっているかと聞くと、幼い娘は「日本では保育園で勉強なんかしないよ、これで大丈夫?」と答えて、みんなで笑ってしまったという。

日本の教育にだんだん慣れていった娘は、権の目から見ると「楽しいことばかりで幸せだなと。小学校に入って、40点や50点を取っても大丈夫、なんて感覚にはさすがに危機感を覚えて、小4で日本の塾に行かせました。日本と違って、競争に勝たねばいけない中国の子どもは頭の中が悩みやプレッシャーでもっといっぱいです」。

美容需要ばかりか、今後の医薬業界への大きな飛躍、さらには医療費削減の秘策としても貢献が期待されるマイクロニードル。その日本における高度技術の製品化のカギを握る権は、25年間住む日本にこんな懸念も持っている。

「今でこそ日本はアジアのリーダーですが、国土も狭く、諸外国が技術力を身に付けてどんどん上がってくる。日本は何で生きるのか? 競争社会ではない日本は平和主義すぎて、一人ひとりは力があるけれど、国家間の競争に残っていけるだろうか、国力を維持できるだろうかと思っています。

子ども時代から将来に向けてどうするのか、考える必要があるでしょう。競争はなくても理想や目標を持って、メンタルを強くし、応用力を育てる教育が欲しいですね」

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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