合法的な薬物依存「デパス」の何とも複雑な事情

ズルズルと飲み続ける患者を生んでしまった

ざっと見ればわかるとおり、不安、緊張、抑うつ、睡眠障害がキーワードになるが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の中でもデパス(エチゾラム)は筋弛緩作用が比較的強いと言われるためか、保険適応にもあるとおり頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛などにも効果があるとされる。処方される診療科としては、精神科、神経内科、心療内科にとどまらず、整形外科、脳神経外科でも比較的よく使われる。

また、デパス(エチゾラム)のように睡眠障害に保険適応を持つ薬は、精神科系診療科だけでなく、市中の一般内科でもよく処方される。これは不眠を感じる患者はまずそれだけで精神科などを受診しない傾向が強く、さらには糖尿病、高血圧などの生活習慣病などの診療を受けている患者が「最近よく眠れない」などと訴える時などに処方されがちだからだ。

このため睡眠障害に使われる薬は、業界関係者の間では主な病気で受診中についでに訴えると処方されることを揶揄して「ついでの薬」と呼ばれることがある。

ところでなぜデパス(エチゾラム)での乱用・依存がとりわけ目立つのか? それについてはいくつかの理由が考えられる。

服用後の効果出現が早く明確だが時間は短い

一般に乱用・依存を来しやすい薬物は、服用後の効果出現が早く明確で、かつ効果持続時間が短いという特徴があると言われる。この種の薬は服用者にとって効果が感じられやすい分、効果切れも実感できてしまう。だから再び薬に手を伸ばす。次第に服用者は薬に依存し、それが極端になると規定の用法・用量を超えた乱用に至ってしまう。

下表は国内で発売されている主なベンゾジアゼピン受容体作動薬の作用時間の長短を示したものだ。デパス(エチゾラム)はまさに作用時間が短い短時間作用型と分類される。ちなみに前述の内訳表で示した乱用原因となっている睡眠薬・抗不安薬の中で、ハルシオンは超短時間作用型、マイスリーはデパス(エチゾラム)と同じく短時間作用型である。

【2019年12月5日15時20分追記】初出時、一部に引用漏れがあったため、上記のように修正しました。

ちなみにデパス(エチゾラム)に次いで乱用が多いサイレースは中間作用型で、効果持続時間が長い点ではやや異なるが、効果が強いことで知られ、また違法薬物であるヘロインやコカインと併用することでいわば「トリップ」作用を強めるという使用や、覚せい剤の使用でハイになってしまい眠れなくなったときの不眠解消などを目的に乱用されることが従来から国内外で知られている。

それでも同じ作用時間が短いハルシオンやマイスリーに比べ、デパス(エチゾラム)の乱用が突出して目立つ理由を簡単に言うならば、服用している患者が多いからである。

こうした抗不安薬など合法的な薬での乱用は、「治療で服用⇒常用量依存⇒乱用」というルートをたどる。ちなみに常用量依存とはおおむね定められた用法・用量の範囲で使用している中で、薬が必要な症状がもはやないにもかかわらず、薬を止めることができないケースである。

前述の流れに沿うならば、同程度の依存性を持つ薬ならば、乱用の分母ともいえる治療で服用している人の数が多ければ多いほど、最終的な乱用患者も多くなる可能性が高い。

この点で考えるとハルシオンは保険適応が不眠と麻酔前投薬、マイスリーは不眠のみであり、前述のように5種類の適応を持ち幅広い診療科で使われるデパス(エチゾラム)は必然的に処方される患者数が多くなる。

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