合法的な薬物依存「デパス」の何とも複雑な事情

ズルズルと飲み続ける患者を生んでしまった

「逮捕されない薬物依存」の実態とは(撮影:村上 和巳)
「合法薬依存」と聞いたときに、どんな状況をイメージするだろうか? 一時期大きな話題となった、いわゆる「脱法ドラッグ」のことではない。医療機関やドラッグストアで普通に手に入る、完全に合法な医薬品――それによって、薬物依存に陥り、生活に大きな問題を抱えてしまう。そんなケースが少なくないのだ。
メディア関係者と医療者の有志で構成するメディカルジャーナリズム勉強会がスローニュース社の支援のもとに立ち上げた「調査報道チーム」が、全5回にわたる連載でこの合法薬依存の深い闇に斬り込む。

タレントの田代まさしの覚せい剤取締法違反、同じく沢尻エリカの合成麻薬MDMA所持による麻薬及び向精神薬取締法違反など芸能人の違法薬物問題が昨今、世間をにぎわせている。とりわけ田代まさしの覚せい剤取締法違反による逮捕は4度目で違法薬物からの離脱の難しさがクローズアップされている。

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もっとも薬物依存と呼ばれるものの中で、覚せい剤、大麻、コカイン、ヘロインなどに代表される違法薬物は、田代まさしのようなケースはあるにしても比較的使用者が離脱しやすいとの指摘も少なくない。こうした違法薬物は使用そのものだけではなく、製造、所持、輸出入、譲渡、譲受のすべてが違法であるため、この一連の流通ルートがつねに取り締まりで脆弱化される恐れが高いからだ。

ここで厚生労働省の厚生労働科学研究費補助金による「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(研究分担者:松本俊彦・国立精神神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)」という研究報告書を例示する。これは全国の入院機能を持つ精神科の医療施設を対象に薬物を乱用して急性中毒や依存、精神障害などの治療を受けた患者の実態をまとめたものである。

1987年から隔年で行われてきた同調査の最新版である2018年版は246施設から2609例の実態を集計したものだ。この薬物関連の精神疾患の原因となった薬物をグラフにまとめると下図のようになる。

「逮捕されない薬物乱用」が4分の1

やはり最も多いのは過半数を占める覚せい剤だ。そして2番手は「睡眠薬・抗不安薬」である。これは医療機関で処方されている医療用医薬品で基本的には合法のもの。3番手がいわばシンナーなどの「揮発性溶剤」、4番手が風邪薬や頭痛薬などの「市販薬」となる。

概説すれば、この報告において医療機関での処方や市販薬など非合法でない薬物は約4分の1を占める。この報告にカウントされた睡眠薬・抗不安薬、市販薬などは定められた用法・用量を超える量を服用する「乱用」により関連精神疾患となった状態を指す。違法薬物の場合は入手、所持自体が摘発されるが、これら合法薬物は「逮捕されない薬物乱用」ともいえる。

この「睡眠薬・抗不安薬」にはどんな薬が含まれているのか? 報告書では内訳が明らかにされている(下表)。

不眠や精神疾患によって医療機関で薬を処方された経験がある人ならば名前を聞いたことがある薬もあるだろう。この中では精神安定薬の成分名(一般名)で「エチゾラム」という薬の乱用が多いことが目立つ。この「エチゾラム」の乱用は報告書に集計された全症例の9.3%。実に乱用で問題がある人の約10人に1人はこの薬が原因なのだ。

しかし、そもそも医師の適切な診察のもと処方されているはずの薬で、なぜ依存や乱用が引き起こされているのか? この問いに対する答えを探すのは、実は非常に難しい。患者、医師、そして製薬企業それぞれの事情などが複雑に絡み合っているからだ。

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