※本来複数の製薬企業から同一成分の薬が発売されている際の表記では、成分名のエチゾラムを使うのが一般的である。しかし、服用患者も含め世間一般では簡単に覚えやすい「デパス」でその名が広く知られていることが多い。このため以後はエチゾラムではなく「デパス(エチゾラム)」と表記することをあらかじめお断りしておく。
依存患者に接触
デパス(エチゾラム)を服用し、依存にまで至った患者はどのようになるのか?
調査報道チームは今回、さまざまなルートを使って服用患者に接しようとしたものの、当初はなかなかうまくいかなかった。連載第1回「合法的な薬物依存「デパス」の何とも複雑な事情」(2019年11月29日配信)で国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏が指摘していたように常用量依存は実態が見えず、服用患者には必ずしも「依存」との自覚があるわけではない。
また、精神疾患領域に精通した記者の1人は「精神トラブルを抱えている人たちは、とりわけ季節の変わり目に心身の変調を起こしやすく接触しにくい」と語っていたが、取材が本格化したのはまさに秋口。
この記者の予言どおり、デパス(エチゾラム)依存の傾向があると思われる服用者に何とか接触し、取材を了承してもらうものの、直前になって本人が体調不良を訴えてキャンセル。その後の連絡に反応なしということが3回立て続けに発生した。
そうしたなか、ようやく取材に応じてくれるという東京都内に住む古宮沙智さん(仮名=50代後半)に会うことができた。路地奥にある沙智さん宅は、室内灯をつけていないこともあり、昼前だというのに薄暗い。沙智さんはその一室に敷いた布団に寝そべり、傍らには夫の嶺二さん(仮名=50代後半)がマスクを着用して同席していた。
「20年ほど前からデパス(エチゾラム)を飲み続けていますよ」
沙智さんは、横になったまま、か細い声でこう応えた。沙智さんはデパス(エチゾラム)を中心に、複数の精神疾患薬を飲み続けている。
以前は千葉県内に両親と住んでいた沙智さん。「子どもの頃から内気な性格で、うつっぽかった」と語る彼女は、物心ついた頃には物に当たったり、大声を出したりとややパニックを起こすこともあった。
成人後は、父が母に対し暴力を振るう「面前DV」も経験。同居する母が脳梗塞で倒れた30代半ばの頃、そのショックがきっかけになり電話帳で探した精神科クリニックを受診し、デパス(エチゾラム)の処方が始まった。