20年間「デパス」を飲み続ける彼女の切実な事情 服用患者は確かな効果を得ても続かず不安に

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「正直言って不安が強くて1日に10錠を服用したこともありました。完全なオーバードーズですね。外出時もお守りのように頓服分を持ち歩いていました。持っていないことが不安になるのです。ただ、次の受診日までに足りなくなるということはなかったですね」

その意味では北方さんはいわゆる常用量依存に当たるかもしれない。そして服用から約10年を経て医師の勧めもあって最終的にデパス(エチゾラム)の服用をやめた。このときはまず1回0.5mg錠を朝晩の1日2回に減量した。ただ、念のための頓服分も処方してもらった。

「1日2回の頃は時々頓服分を服用したり、不安が強くなったため夜の服用分を夕方に前倒しで飲んだりしたことなどはありました。それでも約2カ月でさらに1日1回になりました。その際も頓服分は処方されていましたが、1日1回になってから手を付けることはなくなりました。

1日1回も数カ月で終わり、完全にやめられました。ほかの向精神薬を服用していたことや療養に専念するために仕事を辞めるなどの環境的な要因も好影響だったのかもしれません」

その後はデパス(エチゾラム)を服用したいという欲求が出ることもなく、今に至っている。ただ当時のことを振り返って次のように語った。

「今振り返れば、自分はデパスの常用量依存になっていたのかもと思うことがあります」

合法的な医薬品が依存症となる

服用経験者の証言に共通するのは、何らかの精神的な悩みを抱えて医療機関を受診したこと、そしてデパス(エチゾラム)を処方され、それまでになかった確かな「効果」を実感したということだ。しかし服用を続けている間にその実感が薄れていき、薬がないと不安に感じたり、決められた用量を超えて服用したりするようになる。「依存症」が形成される、典型的な流れともいえる。

ちなみに「デパス」という商品名はラテン語で「離れる」を意味する「De」(デ)、「通り過ぎる」を意味する「Pas(パス)」を合わせて「病的状態から離れ通り過ぎる」という意味を込めた商品名。にもかかわらず、少なからぬ服用者が薬から離れられない「依存症」に陥るという皮肉な結果を生んでいる。

そして同時に、「依存性について説明されることはなかった」という証言も共通する。デパス(エチゾラム)の添付文書(薬の効果や注意点などをまとめた文書)に「重要な基本的注意」として依存性が記載されたのは2017年のことだが、それ以前も医療関係者の間では依存性は周知の事実だった。それにもかかわらず、少なくとも「患者本人の記憶に残る形」での説明はなされていなかったことになる。

覚せい剤やアルコールに依存性があることは、広く知られたいわば「常識」ともいえる。しかし医療機関で処方される合法的な医薬品で依存症になってしまうことは、一般的な「常識」とまではいえないだろう。

だからこそ、十分な配慮をもって患者側に伝達されるべき依存のリスクが、なぜ「伝わっていなかった」のか。医療従事者はどのような意識で、薬の処方や説明を行っていたのだろうか。

(取材・執筆:村上和巳/ジャーナリスト、渋井哲也/フリーライター)

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(第3回に続く)

メディカルジャーナリズム勉強会
Association of Medical Journalism

2016年10月にメディア関係者と医療者の有志により発足。メディアとヘルスケア関係者(医療者・支援者・当事者など)の垣根を取り払い、医療健康情報のよりよい発信手法について学びあうことを目的に活動している。2018年に非営利型一般社団法人化。2019年6月、スローニュース社の支援のもと「調査報道チーム」を立ち上げ、村上和巳(ジャーナリスト)を編集長として医療健康分野における社会課題の発掘・議論喚起を目指す取り組みを開始した。

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