薬剤師が見たデパス「気軽な処方」が招いた事態 過去には90日分540錠を1度に処方することも

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医師や薬剤師の適切な管理のもと処方されているはずの医薬品で、なぜ依存が起きてしまうのだろうか(撮影:村上 和巳)
メディア関係者と医療者の有志で構成するメディカルジャーナリズム勉強会がスローニュース社の支援のもとに立ち上げた「調査報道チーム」が、全6回にわたる連載で追っている「合法薬物依存」。第3回は、デパス(エチゾラム)を処方する医療者側の実状に迫る。
第1回:合法的な薬物依存「デパス」の何とも複雑な事情(2019年11月29日配信)
第2回:20年間「デパス」を飲み続ける彼女の切実な事情(2019年12月3日配信)

※本来複数の製薬企業から同一成分の薬が発売されている際の表記では、成分名のエチゾラムを使うのが一般的である。しかし、服用患者も含め世間一般では簡単に覚えやすい「デパス」でその名が広く知られていることが多い。このため以後はエチゾラムではなく「デパス(エチゾラム)」と表記することをあらかじめお断りしておく。

薬剤師が語る「デパス」処方の実態

前回は、デパス(エチゾラム)の乱用経験がある患者を取材し、依存に至った経緯を聞いた。しかし、そもそもなぜ、医師や薬剤師の適切な管理のもと処方されているはずの医薬品で、依存が起きてしまうのだろうか。

この点について、医療者はどのように考えているのか?

まず話を聞いたのはさまざまな診療科の処方薬を取り扱う薬剤師だ。

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「かつては一般内科では患者が『眠れない』『ドキドキする』『不安がある』と訴えると、すぐに処方されるのがデパスでした。中には『飛行機に乗るとドキドキするので』との訴えで処方されていた人を経験したこともあります」

台東区蔵前で「みどり薬局」を経営し、東京薬科大学客員教授でもある薬剤師の坂口眞弓氏はそう語る。

先述のように、デパス(エチゾラム)は「不安・緊張・抑うつ」などの症状から、一般内科や整形外科で取り扱われることも多い「頚椎症・腰痛症」まで幅広い適応が保険診療で認められている。

「みどり薬局」を経営し、東京薬科大学客員教授でもある薬剤師・坂口眞弓氏(撮影:村上和巳)

かつては一般内科を訪問する不眠症患者にはデパス(エチゾラム)のほかにも、ほぼ同時期に日本で発売された超短時間作用型のハルシオン、またデパス(エチゾラム)と同じく短時間作用型の睡眠改善薬レンドルミン、第1回記事の全国調査にも登場したサイレースなども頻繁に処方されていたという。

しかし、ハルシオンは世界各国で乱用が問題になり、先進国の一部で事実上の承認取り消しや処方に当たっての制限などが相次ぎ、この影響で日本でも処方量は急速に減少。サイレースやレンドルミンはその後に登場した新薬などにとって代わり、なかなか向精神薬指定を受けなかったデパス(エチゾラム)の幅広い処方が最後まで取り残されたと坂口氏は説明する。

また、みどり薬局に勤務し、最近まで大学病院の薬剤部に勤務していた田中みずき氏はこう語る。

「病院によって実態は違うと思いますが、私が勤務していた大学病院では高齢者によく処方されていましたね。整形外科でも高齢者に処方されていた印象があります」

しかし、向精神薬指定を受けたことで現在はデパス(エチゾラム)も処方は急激に減少し始めているという。第1回記事で示したデパス(エチゾラム)の年齢別処方動向を見た坂口氏はこう分析する。

「たぶん向精神薬指定される以前から服用していた人が高齢となり、そのままやめられずに処方されていると考えるのが自然です。そしてその中には本来改善すべき症状が消失した後もデパスがやめられない常用量依存の人が含まれていると思われます。実際、在宅医療を受けている患者さんのところに服薬指導に行くことがあるのですが、同行した精神科医師から『長期間服用している高齢者でのデパス離脱が極めて難しい』と聞かされたことがあるほどです」

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