また、過去に病院薬剤部で勤務し、現在は茨城県古河市で薬局「なくすりーな」を経営する薬剤師の吉田聡氏は「私が薬剤師になった約20年前は、成人で不安を感じる、急な動悸がする、眠れないなどの訴えがあれば、年齢・性別にかかわらずデパスが第1選択薬になるという『何でもデパス』と言われた時代でした。とくに一般内科での処方頻度が多く、しかも1回当たりの処方期間も長期でした」と語る。
ちなみに薬の処方日数については、医療機関や医師が医療保険での診療を行ううえで守るべき基本的な規則を定めた厚生労働省令「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(通称・療養担当規則)によって、内服薬(飲み薬)と外用薬(塗り薬)は1回当たり14日分、30日分、90日分を限度とすることが定められている。
14日分は主に発売後1年以内の新薬、30日分は麻薬・向精神薬取締法の指定薬物などが該当する。これ以外の薬は医師の判断により最大90日分まで処方が可能になるが、患者の病状変化や薬の副作用出現に気づくことが遅れる危険もあり、実際の診療現場では30日分や60日分で処方されることが多い。
1回で90日分処方も珍しくなかった
しかし、吉田氏が薬剤師になった頃はデパス(エチゾラム)で1回に90日分を処方されることは珍しくなかったという。
「過去には90日分として1日3回、1回当たり1mgのデパス服用指示に対して0.5mg錠で出したために、1回に540錠ものデパスを患者さんに渡したことを今でも覚えています」
2016年の向精神薬指定の結果、吉田氏もデパス(エチゾラム)の処方は減っていると感じているが、それでもなお時折デパス(エチゾラム)の処方に接して懸念を抱くケースがあるという。
「実は片頭痛の患者さんに対して一部の脳神経外科医が併用薬の1つとしてデパスを使うことがあります。この処方の患者さんは、薬が切れると、まるで人が変わったようになるのです。過去に勤務していた病院で片頭痛によりデパスの処方を受けていた患者さんが年末年始の休診期間に処方薬が尽きてしまったので、処方してほしいと来院したことがありました。
ところが、あいにく主治医は不在。それを知った患者さんが激高して『この薬がもらえるまでここを絶対動かない』と言い張って玄関に居座ってしまい病院側が対応に苦慮したことがあります。ここまでひどくなくともデパスが切れたことで、ある種の人格が変わるような片頭痛の患者さんの経験にはほかにもあるのです」
この話、一見すると「薬で症状が治まっている患者の薬が切れて症状が出始めたのだから当然のこと」と思うかもしれない。しかし、吉田氏はここに落とし穴があることを指摘する。頭痛で悩む患者では薬が切れたことで人が変わったように乱暴な行動に至るのは「薬物乱用頭痛」の可能性が高いからだという。