「デパス(エチゾラム)を服用し始めてからもしばらくは寝返りを打てなかったり、自力でトイレにも行けなかったりしたんです。ひどいときには、食事も手づかみでとても人間らしい生活はできていませんでした。だからこそ症状を改善したかったので、お医者さんに言われたとおりに服用していました」
自力でクリニックに行けないときは実兄が薬だけを取りに行っていた。デパス(エチゾラム)の服用は1mg錠を毎食後1回、1日合計3錠。当初はほかの精神疾患薬も併せて服用していたが、自分で薬のことを調べ、デパス(エチゾラム)以外の薬は副作用で記されていた食欲増進や血圧低下が気になり、自己判断で服用を中止してしまった。
デパス(エチゾラム)だけをやめなかったのは、一定の効果があることに加え、このとき、沙智さんが調べた範囲では自身が気になる副作用が表記されていなかったからだという。
「服用すると、力が湧いてくるんです。服用しなければ食事ができませんでした。ただ、服用しすぎると、いつもの時間におつかいのための外出できなくなります。それが(効き目の)バロメーターでした」
デパス(エチゾラム)には効果として筋弛緩作用がある。しかし、沙智さんの場合はその作用の真逆で、服用すると「力が湧く」が、度が過ぎると筋弛緩作用が強すぎて外出もままならなくなったようだ。
「依存する薬」との説明はなし
一方でデパス(エチゾラム)の依存性について医師や薬剤師から説明はあったのだろうか。
「最初の病院では、『依存する薬』とは聞いていません。もともと処方される量も少なかったからでしょうかね。服用しなかったときのものをストックしていて、不安が治まらないときは多めに服用することもありました」
沙智さんは約10年前、夫の嶺二さんと結婚し、現在の自宅に引っ越した。このときに通院先を近くのクリニックに変えた。デパス(エチゾラム)1mg錠は毎食後と就寝前の合計1日4錠分になった。就寝前の分は沙智さんが希望したもので、医師からは希望どおり処方された。ここでも依存性についての指摘はなかった。
ところが徐々に効き目が薄れてきたと感じるようになった。訳もなく漠然と死を望む「希死念慮」が生じ始めた。
「お腹に力が入らなくなったんです。そして、自分を滅ぼしたくなる。服用しないと、滅ぼしちゃう感じです」
デパス(エチゾラム)は薬学的にはベンゾジアゼピン受容体作動薬と称されるグループに属する。実はベンゾジアゼピン受容体作動薬は、長期間服用すると人によっては、薬の効き目が低下する「耐性」が生じることも知られている。その結果、1回に10錠を服用するという状況にすら陥った。いわば完全な乱用である。夫の嶺二さんは当時を振り返る。
「布団の中や下にシートから切り離したデパスの包装が散らばっている状態でした。本人は全部を服用していないというのですが……」