イスラエルの超天才が示す「歴史を学ぶ価値」 ユヴァル・ノア・ハラリをまだ読んでいない人に

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個別にはまださまざまな問題が山積みとはいえ、数万年、数千年という長い目で見れば、これまで人類は飢餓や病気や戦争を克服してきた。他方、現在ではゲノム編集をはじめとするバイオテクノロジーによって、生命に手を加える段階に至っている。

今のところ病気の治療が主目的だが、やがて健康な人の能力拡張に使われる可能性もある。現在の美容整形が、第1次世界大戦の負傷者の治療から発達して今日に至るのと似て、能力拡張のためのバイオテクノロジーも、経済的なゆとりがある人たちが恩恵にあずかるのだろう。

また、人工知能を典型とするコンピューターのアルゴリズムは、現在すでに至る所で動いている。アルゴリズムは本書を貫く重要なキーワードだ。もともと数学の用語で、問題を解決する手順を意味する。コンピューターのプログラムも、何らかの課題を実現するための手順を書いたもので、アルゴリズムである。

課題解決の手順を確定できる仕事であれば、コンピューターで自動的に処理できる可能性が高い。検索エンジン、機械翻訳、画像認識、商品や映像のレコメンドシステムなどは目に入りやすい例だ。

加えて今日のコンピューターを使ったアルゴリズムにはもう1つ重要な特徴がある。ネットを通じて、利用者に関するデータを集めることができる。すると何が起きるか。

例えば、私たちが日々交わすメールやチャット、検索の記録やスマートフォンの使用履歴、クラウドに保存しているファイルの中身、スマートウォッチで計測している歩数や脈拍をはじめとする各種生体情報、過去の医療情報などを、まとめて管理するアルゴリズムがあるとしたらどうか。

ホモ・デウスの出現

このとき、そのアルゴリズムは私のことを私以上に知ることになるだろう。しかも、同じようにアルゴリズムに自分のデータを委ねる人が数十万、数百万人といれば、統計的な比較検討も可能になり、そこからさまざまな事実が判明するかもしれない。その膨大なデータは人間ではとても扱いきれず、コンピューターで動くアルゴリズムでこそ処理できるものだ。これは絵空事ではなく、技術的にはすでに実現可能である。

ハラリは、21世紀の世界においては、この2つのテクノロジーを理解することが決定的に重要だと指摘している。なぜか。20世紀を通じて、理念としてはすべての人間を尊重する人間至上主義が台頭し、自由民主主義という形で世界に広まった。そうした国家では、軍事に関わる兵士や経済に関わる労働者を必要とする。そのために保健や教育を国民に施してきた。

だが、これまで人間が担ってきた仕事が、より効率的で疲れを知らないアルゴリズムで実現できるようになったらどうか。一方では、こうしたテクノロジーの恩恵を受けていっそう大きな力を得るホモ・デウスが現れ、他方には疎外され、無用の人となったホモ・サピエンスが取り残される。新たなカースト制が生まれ、ホモ・サピエンスは、かつての奴隷のような立場、自分たちが使役してきた動物のような立場に置かれるのではないか。

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