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イスラエルの超天才が示す「歴史を学ぶ価値」 ユヴァル・ノア・ハラリをまだ読んでいない人に

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上下巻でたっぷり500ページ以上にわたって説かれる詳しい検討の詳細や事例を脇に置けば、これが『ホモ・デウス』の描く未来像である。これは最新作『21 Lessons』でも基底に流れているイメージだ。ホモ・サピエンスにしてみれば紛れもないディストピアである。

同じような状況を描いたSF映画――私がすぐ連想するのはニール・ブロムカンプ監督の『エリジウム』――なら「荒唐無稽だけどまあまあ面白かったな」と笑い飛ばせる。だが、人類の来た道をよく知る歴史学者にそう言われると、そうもいかない気がしてこないだろうか。

自由になるための歴史のレッスン

ひょっとしたら疑問が浮かんでいるかもしれない。過去の研究を専門とする歴史学者が、なぜその範囲を超えて未来について語っているのだろうと。ハラリの歴史学の見方に、その答えが示されている。『ホモ・デウス』でハラリはこう述べている。

歴史を学ぶ目的は、私たちを押さえつける過去の手から逃れることにある。歴史を学べば、私たちはあちらへ、こちらへと顔を向け、祖先には想像できなかった可能性や祖先が私たちに想像してほしくなかった可能性に気づき始めることができる。私たちをここまで導いてきた偶然の出来事の連鎖を目にすれば、自分が抱いている考えや夢がどのように形を取ったかに気づき、違う考えや夢を抱けるようになる。歴史を学んでも、何を選ぶべきかはわからないだろうが、少なくとも、選択肢は増える。(上巻、80ページ)

もし現在が形作られた経緯を知らず、自分が置かれた状況を逃れようのないもの、受け入れざるをえない条件だと思えば、そこから身をふりほどくのは容易ではない。そもそも別の未来を思い描こうとさえ思えないかもしれない。ハラリは、他なる可能性に目覚めるために、行動の選択肢を増やすために歴史を学ぶ価値があるという。

『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』(河出書房新社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

未来を描く『ホモ・デウス』も、実は半分ほどを費やして21世紀の世界がどのように作られてきたかという歴史を検討している。社会、政治、経済、宗教、科学、技術、芸術、価値観といった多様な観点から歴史を眺め、さらには近年の認知心理学や神経科学の知見、あるいは心と脳の関係をめぐる深い謎(心脳問題)を踏まえた新しい人間の見方を検討し、遺伝子工学や人工知能を代表とするバイオテクノロジーと情報テクノロジーの動向から未来をうかがおうという構えである。

何百もの本や論文を読まなければ目にできないこうした知を、まとめて浴びることができるのも本書の醍醐味である。現代を生きる私たちにとって、新たな必修科目といえそうな各分野の知識へのリンク集としても大いに役に立つ。

自由、平等、コミュニティー、文明、ナショナリズム、移民、テロ、ポスト・トゥルース、SF、教育といったトピックごとに読める『21 Lessons』からでもいいし、人類の歴史を大きなパノラマとして見せてくれる『サピエンス全史』から読むのもいい。この3部作は、あなたの歴史と現代の見方をさまざまにアップデートしてくれるはずである。

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