イスラエルの超天才が示す「歴史を学ぶ価値」 ユヴァル・ノア・ハラリをまだ読んでいない人に

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こうなってみて痛感されることがある。いま私たちに決定的に欠けているのは、そうした無数の断片を取捨選択し、裏付けをとりながら筋道をつけてまとめあげる構想力だ。

イスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリの3部作『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』(すべて柴田裕之訳、河出書房新社)が世界中でベストセラーになったのもうなずける。これらはいずれも、バラバラの事実や知見を大きな絵として組み上げてみせる力業を見せてくれる本なのだ。

『サピエンス全史』ではホモ・サピエンスが地上の覇者となるまでの長い歴史を、『ホモ・デウス』ではバイオテクノロジーとアルゴリズムの進展によって人が神のような存在へとなる未来の可能性について、そしてこのたび日本語訳が刊行された『21 Lessons』では現在私たちが直面しつつある課題とそれへの対処を検討している。

いずれの本も、多様な領域におけるあまたの研究や知識を踏まえながら、人類の過去と未来と現在を、大きな歴史の物語としてまとめあげている。これは誰にでも簡単にできる芸当ではない。

ハラリが専門とする歴史学は、過去に関する限られた断片的な証拠から、歴史の出来事を仮説として再構成してみせる仕事である。

具体的な史料をおろそかにせず、時代や社会という大きな対象を描き出す。例えば、鎌倉時代の武士とはどのような存在だったか、ローマ帝国はどのように盛衰したか、第2次世界大戦はどのような経過で生じたか。隙間だらけの史料からそうした過去を浮かび上がらせる。勝手な思い込みや願望ではなく、他の研究者の検討と批判を受けながら歴史の像を磨くわけである。

先の3部作は、そうした歴史学の技法をベースとして、読者の興味を引いてやまない物語の力を存分に活用して仕立てられている。そのつもりで読めば、物事をまとめあげ、魅力的に物語る技法を学ぶこともできる。

人類の未来を見渡す

さて、ここでは、現代を生きる私たちがとりわけ身につまされる論点が満載の第2作『ホモ・デウス』に注目して、ハラリとはどんなことを考えている人なのだろうと気になっている人にご案内してみたい。

先ほど触れたように、これは人類の未来に関する本だ。といっても、未来がどうなるかをぴたりと当ててみせようというものではない。それは誰にもできないことだ。そうではなく、人類の過去から現在までの歴史を手がかりとして、もしこのまま進んでゆけばどうなりそうかという可能性を描き出している。そしてこのままでよいだろうかという警鐘を鳴らすのがハラリの狙いだ。どういうことか。

『ホモ・デウス』に示される未来予測をごく短くまとめればこうなる。ホモ・サピエンスはやがて神(デウス)のような存在を目指し、実際にそうなるかもしれない。なぜそんなことがありうるのか。カギを握るのはバイオテクノロジーと情報テクノロジーだ。

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