筆者も食器洗いなどをすると、無意識に「頑張っている」オーラを出していて妻のカンに触るらしく、何度も叱られている。
そう伝えると嶋田はふふふっと笑ってから、率直に明かした。
「私たち夫婦は対話が足りないのを、共働きの忙しさでごまかしてきた面もありました。あとは、有名人ががんになると、マスコミがやたらと“夫婦愛”を強調するのにもイライラしました。配偶者ががんになっても、すぐに協力して立ち向かえる、円満な夫婦ばかりではないはずですから」
看護師としても、がんを患った多くの人と、その家族を見てきた彼女の現場感でもある。嶋田の患者仲間でも、ステレオタイプの“夫婦愛”報道に眉をひそめる人は多いという。
嶋田は両胸にタイプの違うがんが見つかり、同8月には両方を切除。9月から抗がん剤治療などを約1年半受け続けることになる。心身共にかなりきつかったと話す。
がんになった人を悩ませる「人間関係」
結局、嶋田は同年11月から、実の母親に家事全般の手伝いを頼んだ。夫は不慣れな家事から解放されて喜んだが、嶋田はむしろ逆。抗がん剤治療に苦しむ姿を実母にさらすことで、母娘ともに辛い思いをすることになったからだ。
先の「がん=死」の固定観念が根強いせいで、本人だけでなく、家族も「第2の患者」と呼ばれるほど死の恐怖にさらされる。
嶋田は仕事だけでなく、「よき妻」「よき母」「よき娘」のどの役割も担えず、ベッドで伏せっているだけの自分が腹立たしくて、やるせなかった。
「それなのに、夫は『やっぱり、お義母さんに来てもらってよかったね』って能天気なことを言うので、イラッとしたりしましたね」と苦笑する。
腫瘍内科医で、『孤独を克服するがん治療』(サンライズパブリッシング)の著者でもある押川勝太郎(54)は、「がんの悩みの8割は人間関係」と指摘する。治療内容は、がんの部位や種類、そのステージで決まってくるためだ。
「誰に、どこまで、どのように伝えればいいのかが難しいんです。対家族・対職場、子どもがいれば対学校でも、悩みの種は尽きません。残念ながら、医師の中には治療は自分の仕事だけど、患者の生活や人生は業務外と考える人もいます。そんな医師に、がんの伝え方について助言を求めても相手にされず、医師との人間関係が新たな悩みの種になる人も多いですね」
押川は、がんを「悲劇的な死」の象徴として描いてきた、映画やドラマの悪影響も見逃せないと続けた。がんの5年相対生存率が60%以上を占め、がんの部位や種類、ステージによっては、「付き合っていく病気」になっているにも関わらず、だ。
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