坂東真理子「東大・上野祝辞に思う女子の現在」 昭和から変わらぬこと、変わりつつあること

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男の子の将来には輝かしい未来が待っているかもしれないが、女の子は無理せずほどほどのところで「かわいい、いい子」になればよし、と子どものころから刷り込まれがちだ。

結果、男の子たちが頑張って東大や医学部や司法試験や公認会計士を受験したり、大企業の総合職を目指す一方、女の子は無理をしないでほどほどの進学をし、“ほどほどの就職”をしがちだ。

もちろんどちらも個人の選択だが、現在の日本の社会でも家庭でも職場でも男性が大事にされ優位に立つのが当たり前であり、そうでないと居心地が悪くなる男性は、実際のところ少なくないだろう。

日本人男性が留学すると元気がなくなり自己評価が下がり、日本に帰りたがるが、女性は生き生き伸び伸びと羽ばたく。筆者の周囲ではそうしたケースを多く見てきた。

実際、国際機関で働く日本人を見てみると、日本との違いがわかる。たとえば国連で働く日本人は、女性が477人であるのに対し、男性が316人(2016年)。日本の一般的な企業における男女比とは、かなり違うことがわかるだろう。いったいなぜなのか。

これは語学の問題ではなく、日本の社会では男性にげたをはかせているから、こうした現象が出るのだと筆者は見ている。逆に、女性は日本で自分を抑えていた見えない縛りがなくなったように感じて、自信をもって羽ばたくのかもしれない。

多くの人がうなずくことと思うが、勉強がよくできて親の期待に応えてきた男の子の中には、パートナー(妻)である女性は自分の世話をして、自分のキャリアを支えてくれるものと思い込んでいる人が少なからずいる。

若い世代を中心に積極的に家事をする男性は着実に増えているが、依然として、できる範囲でのみ家事育児は手伝う、というスタンスの人も多くいる。女性のほうが家事育児に向いているし、本来それが女性の持ち分だと、悪気なく思い込んでいるのだ。

男性である自分が家庭より仕事を優先するのが当然であり、パートナーが家庭より仕事を優先するのは許せない。自分よりパートナーの収入が多かったり、職場で成功すると居心地が悪い――。少しずつ世の中は変わりつつあるとはいえ、そういう男性たちもまだまだ多いのではないだろうか。夫の自尊心を傷つけないように、夫を立てるのが賢い女性だと思っている。

保護者や上司にお願いしたいこと

こうした世の中で、これから社会に出る女の子たちはどうやって生きていったらいいだろうか。

私が卒業式や入学式など、いろいろな機会に女子学生に言っているのは「自分を粗末に扱うな、自分を見捨てないで、いいところを少しでも伸ばし、小さい実績を作っていこう」ということである。

そして保護者の方にも就職先の方々にもお願いしているのは、自分の娘や女性の同僚や部下に期待してほしいということである。

娘や女性部下が努力を必要とする少し高い目標に挑戦したいと言っていたら、「無理するなよ」「できるはずないだろう」「おとなしくしていたほうが楽だよ」と足を引っ張らない。「君ならやれる」「頑張れよ」と励ます。できれば、具体的な役に立つアドバイスをしたり、同僚の批判から守ってあげるような応援をすることである。

若い女の子たちに伝えていることは、世の中は理不尽なことが多いが、それにめげてはいけないということだ。今回、東大の祝辞で男女差別に関する内容が扱われたように、かつてに比べれば、日本社会も少しずつ、確実に変わりつつある。「女の子らしく」というプレッシャーに負けることなく、ささやかな努力を持続し、小さな成功を積み重ね、昭和とも平成とも違う令和を明るく生き抜いてほしいと思う。

坂東 眞理子 昭和女子大学総長

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ばんどう まりこ / Mariko Bando

1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に330万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。

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