結局、ベルトコンベヤーの担当を外され、ピッキング作業に回された。
コウタさんはすでに勤続12年だが、この間、時給は下がったことはあっても、上がったことはない。
当初、時給は1000円だったが、大型スーパーが委託先を別の会社に切り替えたとき、コウタさんら従業員もその別会社に移籍、同時に時給が900円台に下げられた。下請け会社がより安い委託料で業務を受注し、労働者の雇用ごと居ぬきで引き継ぐ代わりに賃金をカットするのは、下請け現場の悪しき構図の1つでもある。
その後、しばらくして時給は1000円に戻ったが、再び900円台に。ミスが原因だと思う、という。いずれも事実上の「一方的な労働条件の切り下げ」である。労働契約法で規制された行為だが、いつ雇い止めされるかわからないコウタさんにしてみると、従うしかない。
糖尿病が仕事の効率を悪化させる
また、コウタさんは1型糖尿病患者でもある。生活習慣と関連がある2型と異なり、自らの免疫が誤って膵臓を攻撃することで、インスリンが正常に作られない。1日4、5回、インスリン注射の必要があり、医師からは食間を4時間空けるよう言われているが、職場では、荷物の到着時刻に合わせて食事を早めにとるよう指示されることがたびたびある。さらに「怖がる人がいる」との理由で注射はトイレで打つよう命じられているという。
「(食間が短いと)高血糖状態が続くので、ボーッとします。注射のたびにトイレに行くのでその分、休憩時間も短くなります」
ミスが多いことはコウタさんも認めている。一方で、判断に迷ったときは、同僚や上司に確認するなど、彼なりに努力もしている。コウタさんは「優秀な人材」ではないかもしれないが、10年以上勤めても、貯金も、1人暮らしもできない賃金水準に据え置くのは、「障害者は生かさず殺さずでいい」と言わんばかりの処遇なのではないか。
ただ、コウタさんの主張で、1つだけ共感できなかったことがある。
ピッキング作業では、毎日荷物の取り扱い個数が違う。多い日はスピードを上げなければならないが、コウタさんはそのペース配分がわからないという。作業は数人1組で行い、コウタさんは最初にベルトコンベヤーに荷物を投入する係。荷物が多い日も、いつものペースで仕事をしていると、その先で待ち受ける同僚らからもっと急げと、文句を言われる。
私が、持ち場を交代すればいいのではと言うと、「荷物の投入作業は運動代わりにもなり、血糖値が下がるので、交代はしたくない」と訴える。さらに「同僚は、僕が糖尿病だって知ってます。なのに、『仕事は、あなたの血糖値を下げるためにあるわけじゃない』と言うんです」と続ける。私が、さすがにそれは同僚が正しいと思うと言うと、「うーん、そうでしょうか」と黙ってしまった。表情から納得してないのがわかる。
子ども時代に発達障害の専門支援を受ける機会を逸したコウタさんが、周囲の人たちの心情を忖度することは容易ではないのかもしれない。悪気があるわけでも、身勝手なわけでもないが、一緒に働く人もまたストレスを感じているだろう。
途中、気になっていたことを聞いてみた。なぜ、同じ発達障害の人を批判するのか――。
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