小さいころから、私物を隠されたり、無視されたりするなどの陰湿ないじめを受け続けた。中学では、仲のよい者同士で集まって弁当を食べる習慣があったが、コウタさんはどのグループにも入れてもらえなかったという。「子ども時代にいい思い出はないです」。
専門学校を卒業しても、正社員になることはかなわなかった。やむを得ず、いくつかの会社でアルバイトをしたが、いずれも時給は最低賃金水準。雇い止めに遭ったこともある。
社会人になってからも、人間関係ではつまずいてばかりだという。
友人の長話に付き合ったことについて、SNSに「本当は早く家に帰りたかった」と書いたところ、後日、その友人から「直接言えばいいだろ」となじられた。友人らと食事をした帰り際に「また会おうね」と言われたので、具体的な日時を決めようとしたら、引かれた。女友達にLINEで「貧乳だね」と言ったら、ブロックされた――など。
自分がされたら嫌なことをしなければいいのでは――。私がそう言うと、コウタさんは同じことをされても、自分は必ずしも不快ではない、という。確かに、コウタさんはいじめや雇い止めの経験を話すときも、どこか穏やかで、時に笑みさえ浮かべていた。よくも悪くも根に持つことがないのか。ただ「ほかの人にとって何が嫌なのか、ピンとこない」。
コウタさんは自らに言い聞かせるように「『またね』は『バイバイ』と同じ、ただのあいさつ。女性に外見のことを言ってはダメ」と話す。失敗のたび、学ぼうとしているのだ。
仕事でも発達障害が妨げに
現在は、大型スーパーの物流倉庫内の作業を請け負う会社で働いている。細かいミスを繰り返し、上司からはたびたび「発達障害を言い訳にするな」「できないなら努力しろ」と叱責される。
例えば、荷物を搬送するベルトコンベヤーが停止してしまったときの対応が、コウタさんは苦手だという。コウタさんによると「(停止の原因になっている)荷物を取り除くとき、中でもある程度の重さのある荷物を選んで動かさなくてはならないのですが、その重さの目安がわからない」。軽すぎると、ベルトコンベヤーが正常に動かなかったり、最悪、荷物がつぶれるなどのトラブルにつながってしまう。
「何キロ以上という具体的な決まりがあれば、ちゃんとできると思うんです。でも、上司は『長年やっているんだから、わかるだろう』と。臨機応変な判断が苦手という発達障害の特徴を伝えているのに、配慮をしてくれません」
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