12年勤続のアルバイト男性が笑顔を見せるワケ 発達障害で人間関係ではつまずいてばかり

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すると、コウタさんは、かつて本連載に登場した男性が生活保護を利用したうえで、さらに障害年金も受給している、つまり二重取りをしていると思い込んでいたことがわかった。また、生活保護は住む場所がない人が利用する制度だという誤解もしていた。

私が、生活保護は地域などによって金額の上限は決まっており、その男性は障害年金を受給し、足りない分を生活保護で補っていたことや、生活保護後は原則定住者しか利用できないことを説明すると、あっさりと納得した。コウタさんは2年前に障害年金の支給を打ち切られた。理由はわからない。そのことも「不公平感」に拍車をかけていたという。

結局、批判は「無知」や「誤解」によるものだった。ただ、「知らないこと」はすべての局面で、免罪符たりえるのか。コウタさんは、勤務先についてこんな話もしていた。

「あるとき、親に『有給休暇はないのか』と聞かれ、初めて有休というものを知りました。今の会社はブラックなので、そんなこと、一度も説明してくれたことがありません」

自分のためにも知っておくべきこと

コウタさんは、有期雇用で5年を超えて働いた労働者は無期転換できる制度についても知らないという。コウタさんの不満の1つは、時給が上がらないことだ。簡単にはクビにならない無期雇用になれば、賃金や待遇についても要求しやすくなるはずなのに、どうしてそのための手立てを知ろうとしないのか。

貧困状態にある非正規労働者は、労働関連法について学んだり、声を上げたりする余裕がないのだ、という人もいる。しかし、現状に不満があるなら、必要最低限、知っておくべき権利はあるだろうと、最近、私は思ってしまう。

取材を終え、最後に写真の撮影をお願いすると、コウタさんは「顔が写るように撮ってほしい」という。理由は「最近、SNSでブロックされたり、オフ会に参加してもうまくいかなかったり……。友達が減ってしまったんです。記事に顔が載れば、だれか連絡をくれるかなと思って」。友達が欲しいと、コウタさんは言う。

私は、ネット媒体には思わぬバッシングも寄せられるから、顔出しは勧めないと答えた。「そうですか、わかりました」。彼はそう言うと、やはり屈託のない笑顔を見せるのだった。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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