山田:例えば、MCという立ち位置の順番待ちの列があるとして、僕はその列には絶対並べてないですからね。まったく関係ない。ていうか、一発屋っていうポジションは、実はどこにも並んでない(笑)。そういう状態で40歳になって、さてどうする、というのは考えますよね。
田中:でも、それは芸人に限らず、みんなが考えたほうがいいことですね。会社のポストは限られているし、それこそ社長の椅子はひとつしかない。そこで、「みんな同じすごろくを進む必要はない」と言ってあげることが、今の40代男性には必要だと思います。仕事の幅を広げるのか、活躍する方向性を変えるのか、家庭や趣味などプライベートを充実させるのか。それこそ、男爵のように文筆という新たな道が開けることだってある。
山田:いやいや、文章書くのだって余程じゃないと儲かりませんし、しょせん素人ですから(笑)。
田中:いや、まあご謙遜を。それこそ、以前に男爵がおっしゃっていたと思うのですが、「社会の歯車でいいじゃないか」という考え方は、多くの人にとって慰めになるはずです。組織の中で、自分にしかできない、替えの利かない役割を果たしている人なんてほんのひと握り。ほとんどの人はシステムの歯車にすぎませんが、その歯車のおかげで、社会は成り立っているわけです。
山田:そのとおりだと思いますね。
人生が同じ規則性を持つ時代ではなくなった
田中:僕が2歳の子どもと一緒に見ている『きかんしゃトーマス』は、大人の視点から見れば、働くことについてのヒントがいっぱい詰まっているんです。ソドー鉄道に混乱と遅れを生じさせると管理者であるトップハム・ハット卿に怒られるけど、定められたダイヤどおりに運行していると、「役に立つ機関車だ」ってめっちゃ褒めてもらえるんですね。歯車を全うすることって、実はすごいことだし、もっと評価されていいんじゃないかと思います。
山田:やっぱり多くの中年男性は、「40代はひとかどの人物であるべきだ」「ギラギラ前のめりで圧倒的存在になるのがカッコいい」というプレッシャーに縛られて、レースを降りられなくなってるんですかね。あるいは、レースはとっくに終わってるのに、次の行き先が決められないんだと思います。
田中:社会学に引きつけて言えば、ライフ・サイクル論からライフ・コース論へという転換が起こっています。
ライフ・サイクル論は、標準的な人生のサイクルを設定して、それを基準に分析をする研究手法ですが、誰の人生も同じ規則性を持って推移するという前提が通用しなくなりました。だから、それぞれの人生の個別性や固有性に着目するライフ・コース論へ移行したんです。
ひと昔前であれば、40代の男性だったら既婚者で、子どもがいて、一家の大黒柱としてそこそこ稼げているという世間のイメージと実態がそれなりに一致していました。でも、現代では、こうしたイメージは残っているけど、誰もが現実にそれを達成できるわけではなくなっています。このギャップは辛いところです。
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