40歳で「先が見えてしまった」男たちの出口 山田ルイ53世×田中俊之が語り合う

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山田:小さいライブハウスで、ウケたかスベったかわからないような漫才をして、10人くらいの出待ちしているファンと一生懸命しゃべって、機嫌よく帰っていく先輩を見ながら、「こいつら売れへんな」と心の中でバカにしていました。でも、自分がいざテレビにわーっと出て忙しくさせてもらうようになって、そこからどんどん出番が減っていって、40代になった現状を振り返ると、絶対に登れないポジションってあるんですよね。夢は無限には広がってないことに遅まきながら気づいた。自分にできる範囲の中で機嫌よくやっていくしかないんです。

田中:その点、最近の30代の若手芸人の方たちって、「テレビで売れなきゃ負け」「MCになれなくて悔しい」みたいな感覚が最初からあまりなさそうに見えます。自分たちでイベントや劇団などの小さなコミュニティを作って、そこでファンを集めて楽しくやれていれば満足、みたいな世代的な傾向を感じませんか?

山田:満足なのかはわかりませんが、そういうスタイルの人は増えてますね。ただ、若い時の僕やったら、「俺たち、全然これで充実してます」って奴を見て、「わあ、こいつら逃げてるなあ」と断じてしまったでしょうが、今なら、それで自分が機嫌よく満足できるんやったらそれでええなと、うらやましい部分すらありますね。

“なれなかった後”の人生をどう生きるか

田中:芸人さんの世界では、一般社会における出世コースのゴールというのはどこになるんでしょうか。

山田:やはり、MCになるというのが、ある種の“上がり“”成功者“という目印にはなるんじゃないですかね。もちろん、ほかにもいろいろあるとは思いますが、わかりやすく言えば。

田中:会社だと、本当は現場で働いているのが好きなのに、中年になってマネジメント職に就かなきゃいけないのが辛い、というジレンマをよく聞くんですが、お笑いの世界にはそういう葛藤ってないんでしょうか。MCになって場を回すよりも、ひな壇でいつまでもガツガツ笑いを取りにいきたい、みたいな。

山田:MCをやったことのない僕が何を言えるのかわかりませんけど(笑)、少なくとも現在のバラエティ番組において、MCは今なお最高峰のポジションで、それはやっぱりそれだけの実力や技術がある証しなんですよ。トーク力のないアイドルや新人タレントに話を振ってあげて、変なことを言ったらツッコんで、盛り上がって笑いが起きれば、それは「MCが笑いを生み出した」という評価になります。共演してるタレントやスタッフも、「あの人のおかげで助かったわ」と思いますしね。

田中:MCは中間管理職というよりも、ある種、現場の最前線なんですね。

山田:テレビに出たての若手芸人は、よく周りのことを考えずに爪痕を残そうと自分のギャグを無理やりねじ込んだりする。まさに自分のことですが(笑)。若手のうちはそれでいいんですよ。全体を俯瞰(ふかん)で見ている手練れのMCの方がうまくフォローしてくれますし、均等に話を振ってチャンスをくれますから。そこで扱われ方や振る舞いを学んで、生き残ることができれば、徐々に一端の芸人に育ててもらえるシステムになっている気がします。

田中:そういう意味では、お笑いの世界って育成のシステムがとてもちゃんとしていてうらやましいですね。一般の企業では、上司がしっかりしているとは限らないし、適切な役割を与えてもらえるとも限らない。それどころか、「手柄は俺のものだけど、ミスはお前のせい」みたいなことが起きる(笑)。その代わり、MCはよっぽどの実力者じゃないとなれない狭き門なわけで、世代交代ができないという弊害があっても新陳代謝が進まないのは納得です。

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