「有利な状況」を引き寄せる人は何が違うのか 孫子の「兵法」に学ぶ勝てる戦い方

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単純さと複雑さは共存できるし、その単純さが理解の手がかりになる(写真:phototechno/iStock)
アメリカの名門イェール大学で、長年人気を博する「グランド・ストラテジー(大戦略)」講座。学部生から現役軍人までが参加し、活発な議論が交わされる伝説の講座として、世界的に知られている。その創設者の一人であり、同講座を主導してきた米ソ冷戦史の泰斗が、講座のエッセンスを抽出した『大戦略論』を刊行。その中から今回は、孫子の『兵法』にまつわる大戦略を一部抜粋して紹介する。

指針と手順の断定的な主張の集大成

『兵法』は一人の人間の手によるのか複数によるのかもはっきりせず、編集が数世紀にわたって行われた可能性もある。孫子は春秋時代の武将・思想家である孫武の尊称とされるが、これについても諸説ある。

ともあれここでは、孫子なる人物が『兵法』を書いたということにしておく。ギリシャの叙事詩や歴史は何らかの出来事や人物を描いており、そこから教訓を引き出すのは読み手に任されているのに対し、孫子は原則を提出する。時間と空間を超えて有効な原則を選び抜き、それを時間と空間に制約される実践に結び付けていく。だから『兵法』は、歴史ではないし評伝でもない。指針と手順と断定的な主張の集大成である。

たとえばこんな具合だ。

「将、わが計を聴くときは、これを用うれば必ず勝つ、これを留めん。将、わが計を聴かざるときは、これを用うれば必ず敗る、これを去らん(私の戦略を採用する将軍は必ず勝利するから、留めおけ。一方、私の戦略を採用しない将軍は必ず敗北を喫するから、辞めさせよ)」(計篇)

実に明快ではある。だが、その戦略とは何か。孫子は「水の行は高きを避けて低きに赴く(水は高いところを避け、低いところへ流れる)」と語る(虚実篇)。「木石の性は、安ければすなわち静かに、危うければすなわち動き、方なればすなわち止まり、円なればすなわち行く(木や石は平らなところに置けば動かないが、傾斜したところでは動き出す。木や石が方形であれば動かないが、丸ければ転がり出す)」と説く(勢篇)。

『兵法』に書かれているのはただの言葉の羅列に見えるかもしれないが、実際には犬をつなぐ鎖のようなもので、原則でもって行動を縛り、逸脱を防ごうとしているのである。

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