JFAをきっかけに、プレイヤーズファーストという言葉をよく耳にするようになった。
たとえば、オリンピックなど国際大会での海外遠征で試合に出ない役員がファーストクラスやビジネスクラスに乗り、選手がエコノミーで肩身の狭い思いで移動していると報道されたときに、これはプレイヤーズファーストの原則からしておかしい、というふうに使われた。
全日本実業団対抗女子駅伝で起こった「ある事件」
しかしこの言葉は、使い方次第でどのようにも転がっていく言葉なのだ。
この秋、プレイヤーズファーストという言葉を論じるうえで象徴的な事件が起こった。
10月21日に福岡県で行われた全日本実業団対抗女子駅伝の予選会で、岩谷産業で2区を任された飯田怜(19歳)が、第2中継所手前約200メートルで立てなくなり、残りの距離を四つん這いで進んで、中継所で待つ次走者にたすきを渡した。飯田は両膝から流血していたが、レース後、右すねを骨折する大けがだったことがわかった。
大会本部のテレビ中継で飯田の負傷を確認した岩谷産業の広瀬永和監督は棄権を申し出たが、連絡がうまくいかず、現場の審判員に伝わったときには中継所まであと20メートルほどだった。審判員はレースをストップさせず、そのまま見守った。
テレビ中継には審判員と思しき関係者の「これは(このまま)行かせたい」という声も残っていた。
即座にレースの中止を決断した岩谷産業の広瀬永和監督と、レースを中断したくない一心で走路を這った飯田怜の気持ちを尊重してレースを続行させた審判の、どちらが「プレイヤーズファースト」にのっとった判断だと言えるのだろうか?
意見は分かれるだろうが、「プレイヤーズファースト」が本来「選手育成」を目的とする言葉であることを考えると、答えははっきりする。
「育成」とは「今」ではなく「選手の未来」のために、選手を教え導くことだ。指導者は、今の勝敗よりも、選手が今後も長く競技生活を続け、成長し続けるためにはどうすればよいかを第一に考えるべきなのだ。そのことを考えれば選手を棄権させようとした岩谷産業の広瀬永和監督の判断こそが「プレイヤーズファースト」だということがわかる。
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