このあたりの関係を、明快に説明するのがスポーツ指導者の荻野忠寛だ。
荻野は桜美林高校、神奈川大学、日立製作所を経て2006年大学、社会人ドラフト4巡目で千葉ロッテマリーンズに入団。
救援投手として活躍した(通算9勝11敗40セーブ33ホールド)。
その後再び日立製作所で投げたのちに、学生野球資格回復の適性認定を受けて指導者になった。
今、その独自の指導理論で、野球だけでなくほかのスポーツ分野、さらには一般企業からも注目を集めている。
「子どもは“未来の予測”がうまくできません。今のことに夢中になってしまいます。4、5歳の幼児が危ない場所に平気で行ってしまうのは、その後に起こる危険を予測せず、今、楽しいことを求めるからです。
未来を予測する能力は成長するにつれてだんだん備わってきますが、個人差はあるにせよ、中学、高校レベルで、未来を予測し論理的に説明して行動できる子はほとんどいません。
僕はだから指導者、大人がいるのだと思います。“今はそうかもしれないけど将来のことを考えたらこうだよ”と導くのが大人の役割でしょう。そういう意味では、プレイヤーズファーストは、厳密に言えば“プレーヤーズ・フューチャー・ファースト”なんですね」(荻野氏)
選手に責任転嫁をしていないか
高野連の八田英二会長は、今夏の甲子園の閉会式で決勝まで1人で投げぬいた金足農の吉田輝星を、「秋田大会から1人でマウンドを守る吉田投手を、ほかの選手が盛り立てる姿は、目標に向かって全員が一丸となる、高校野球のお手本のようなチームでした」と褒めたたえたが、この発言からは「プレイヤーズファースト」の考えが欠落している。
1人でマウンドを守り切った吉田は、右腕に深刻な損傷を負った可能性があるからだ。将来のことを考えれば、目先の勝利を追わず、吉田を自重させる選択肢もあったはずだ。
冒頭で取り上げた至学館大の谷岡学長や、高野連の竹中事務局長の発言も、本来、指導者が選手の未来を見据えて判断すべきことを、「選手がそういうから」「選手の言うことに従わないと」と責任転嫁している。「プレイヤーズファースト」の考えにもとる発言だと言えよう。
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