紅白歌合戦、「男女が競う立て付け」の違和感 「その年を象徴する曲を決める」に再定義を

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そして、演出面においても、「紅白」は音楽だけでなく、その年一年のエンタメの話題を総ざらいするような見せ方となってきている印象がある。つまり、「紅白」は最も「ツイッターをしながら観る」ことに適した番組として進化してきているのである。

象徴的だったのが、映画『シン・ゴジラ』とコラボし、ピコ太郎が第九バージョンの『PPAP』を披露、活動再開を果たした宇多田ヒカルが初出場し、同じく初出場のRADWIMPSがアニメ『君の名は。』の映像をバックに『前前前世』を歌った2016年の第67回だろう。その一方で、女性アイドルファンを中心にブレイクを果たしつつあった欅坂46が初出場を果たしている。

また2017年も、引退を発表した安室奈美恵の最後の出演や、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」の紅白特別編に出演した桑田佳祐が目玉となった一方で、K-POPファンに急速に支持を集めていたTWICE、ロックフェスで動員を拡大しつつあったWANIMAが初出場を果たしている。

今の日本の情報環境において、もはや「お茶の間」は存在しない。たとえ視聴者が数千万人単位でいようとも、それは「マス=大衆」という集団ではなく、さまざまなカテゴリーのファンダムと、そこに一切興味を持たず身近な家族や友人と共有する話題性(=アテンション)のみに関心を持つ「無趣味層」の集合体でしかない。

もちろん高齢者のなかには「馴染みのある歌手が国民的な流行歌を歌ってくれたかつてのような紅白が懐かしい」という声もあるだろう。しかしそうした嗜好も、すなわち「懐メロ」というカテゴリーとそのコミュニティに回収されてしまうのが今の時代だ。

そのことを前提に考えると、現在の「紅白」は、かつてのような「きわめてマスに向けた発信をする」番組と位置づけるのは難しいだろう。多数のサブカテゴリーが乱立する「ファンダムの時代」と、話題性が大きな力を持つ「アテンションの時代」という、今の情報環境の二層構造に対応する形で発信している稀有な音楽番組だと筆者は考えている。

男女の括りを撤廃し「歌合戦」の本質に立ち戻れ

では、この先の「紅白」はどうあるべきか。

これは番組に携わるスタッフの方にも直接言ったのだが、こうした制作や演出の方向性自体は間違っていないと思っている。しかしそれ以前に問い直すべき大きな課題がある。

と言うのも、LGBTの権利が社会的に認められ、ジェンダーの多様性が増している今、「紅組」と「白組」に男女が分かれて勝ち負けを決める、という番組の枠組み自体がもはや時代錯誤なものになっているのではないかと思うのである。いきものがかりやAAA(トリプル・エー)のように男女混成のグループもある。それ以前に、そもそも男女に分かれて勝ち負けを競う必要、それをゲスト審査員や会場審査員、視聴者投票によって決める必要がどこまであるのだろうか。

むしろ番組の「勝者」は別の形で明らかになっている。毎年放送後には瞬間視聴率が発表され、最も注目を集めた歌手が誰であったかが明らかになる。SNSでどのようなバズが起こったかも計測され、ニュースとなる。また、年始のダウンロードやストリーミングサービスのチャートの変動からは、視聴者が番組でどの曲を聴いて「いい」と思ったかも明らかになる。このように、勝負はいわば番組の外側で行われている。

そこで本稿は、実際に実現するかどうかはさておいて、未来の「紅白」に向けての一つの大胆な提言で締めくくろうと思う。

「紅白歌合戦」という番組のタイトルは残しつつ、「紅組」と「白組」という男女の括りを撤廃して、「歌合戦」としての本質に立ち戻るのはどうだろうか。

ゲスト審査員による投票、会場や視聴者投票の枠組みは残しつつ、その対象は「どの歌手が最も強い印象を残したか」、もしくは「どの曲が最も素晴らしかったか」とする。

つまり、「紅白」を「その年を象徴する曲を決める歌合戦」として再定義するわけである。もちろん、投票数はそれぞれのファンダムの大きさと強い相関があるだろう。しかし、美輪明宏が12年に歌った『ヨイトマケの唄』が大きな話題を集めたように、歌の持つ力が時代を超えて響く例もあるかもしれない。

この先数十年かけて、未来の「紅白」がアメリカのグラミー賞のような権威を持つ新しい歴史を築くようになっていったら、それはまた素晴らしいことではないかと思う。

柴 那典 音楽ジャーナリスト

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しば とものり / Tomonori Shiba

1976年神奈川県生まれ。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手掛ける。『日経MJ』にてコラム「柴那典の新音学」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)などがある。

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