紅白歌合戦、「男女が競う立て付け」の違和感

「その年を象徴する曲を決める」に再定義を

「ヒット曲不在の時代」という言葉が持つ2つ目の意味合いは「ヒットチャートの機能不全」ということだ。

特に2010年代に入り、オリコンランキングの「ヒットの指標」としての役割はどんどん低下している。特典を目当てにした複数枚購入が当たり前になり、一方で配信限定のリリースが増えたことで、シングルCDの売り上げランキングと実際の流行歌の乖離が著しくなった。AKB48関連のシングルが数年にわたり上位を独占するオリコン年間シングルCDランキングの状況が象徴的だ。CDセールスとヒットがリアルタイムで結びついていた1990年代と違い、オリコンランキングは「今、この曲が流行っている」ということをわかりやすく示すヒットチャートではなくなった。

一方、ここ数年注目を集めているのが、ビルボード・ジャパンの「Billboard Japan Hot 100」だ。CDやダウンロードのセールスだけでなく、ストリーミングサービスの再生回数、ラジオのオンエア数やユーチューブの視聴回数、ツイッターでのアーティスト名と曲名のツイート回数などを独自の指標で集計した複合型チャートである。

こちらの年間ランキングでは三代目J SOUL BROTHERSの『R.Y.U.S.E.I.』が15年の1位、星野源『恋』が17年の1位になるなど、セールスよりも話題性の高い楽曲がロングヒットを記録する傾向がある。パッケージからデジタルへとマーケットが移行した時代に即した楽曲の流行を可視化しているヒットチャートと言える。

さる6月末に発表されたBillboard Japanの18年上半期チャートでは米津玄師の『Lemon』が1位。また、6月にリリースされたDA PUMPの『U.S.A.』は10月8日付けのチャートでも2位となりロングヒットを記録している。「今年を代表するヒット曲」は、この2曲が候補に挙がることになるだろう。

また、オリコンランキングは12月からストリーミングの再生回数を集計し売り上げ換算ポイントとしてCDやダウンロードと合算して集計した「オリコン週間合算ランキング」の発表を開始するという。

ストリーミング以降の時代において、ヒットの基準は「売れた枚数」から「聴かれた回数」へと変わっている。2019年以降は、より時代に即した形でヒットチャートが機能するようになるはずだ。

「ファンダムの時代」

そしてここから書く「ヒット曲不在の時代」という言葉の3つ目の意味合いが、本質的な時代の変化を象徴するものであり、本稿の最も重要なテーマだ。それは昭和の「歌謡曲」の時代に比べて、21世紀に入った今はそもそもエンターテインメントやカルチャーが多様化し、人々の興味や嗜好も細分化している、ということだ。

もはや世代や性別といった属性で好きな音楽を括ることは難しい。「今の若者は〜」などと価値観や趣味嗜好を語ることがまったく無効化している。筆者が講座を受け持った大学のクラスで好きなアーティストをアンケート形式で挙げてもらったときにも、ほぼ「一人1ジャンル」と言っていいほどバラバラの名前が挙がった経験がある。

かつて、流行歌は学校や職場など「身近にいる友だちや知り合い」の間で共有するコミュニケーションツールとしての役割を果たしてきた。もちろん今でもその側面は変わっていない。数年前なら星野源の「恋ダンス」が、今年ならDA PUMPの「いいねダンス」が忘年会の余興として各地で披露されるだろう。

しかし、そうしたコミュニケーションとは別に、SNSが普及した現在はアイドルやアーティストのファン同士が繋がり合い、密接に情報を交換し合うことが容易になっている時代でもある。特に熱心なファンは濃く、ハイコンテクストな文脈を共有し、独自の行動様式や文化を生み出す「ファンダム」を形成する。

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