1人でも「寂しくない」未婚者が増える背景 はたして孤独は全員に共通する悪なのか

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自分で自分を認めて、信じられるようになれば、すでに自分の中に拠り所となるインサイドコミュニティができている証拠です。インサイドコミュニティとは、自分自身の中に「安心できるコミュニティ」を作り出すということです。所属するコミュニティは、あくまで自分の外側の枠に自分を置くことでした。

しかし、接続するコミュニティでは、逆に自分の内面に安心できるコミュニティを築くことになります。たくさんの人とつながり、自分の中にたくさんの自分が生み出されるということは、いわば「八百万(やおよろず)のあなた」によってあなたの中が満たされるということ。それが、自分のインサイドコミュニティなのです。

孤独を悪者にしても、孤独は解消されない

宇多田ヒカルさんは歌詞作りの際に、私が「私ではない誰か」に伝えたいことを書くという話をしていました。「私ではない誰か」とは特定の誰かではない。かといって架空でもない。それは「私ではない私」でもあり、「誰かによって生まれた(私の中にいる)私」なのではないでしょうか。

だからこそ、彼女が作り出す歌には自分への「願い・祈り・希望」が込められているのです。そして、それが多くの人の心の中にいる「宇多田ヒカルによって生まれたあなた」「同じように漠然と孤独を抱えているあなた」にも共鳴し、心を打つのでしょう。

所属することで「集団の中にいる私」で安心していた時代から、「誰かと接続することで生まれる私の中の私」と付き合うことへ。それは個々人がバラバラに生きる世界ではなく、むしろたくさんの誰かと「新しく生まれた私同士がつながる」世界なのだと思います。

孤独を悪者にしても孤独は解消されません。「誰かに傍にいてほしい」「誰かに理解してほしい」というように、自分の外側のアウトサイドコミュニティだけに依存してしまうから、孤独というものを極度に恐れたり、嫌悪したりするのです。それは孤独のせいではなく、「あなたの中のあなたが足りない」からです。

宇多田ヒカルさんの「道」という曲には次のような意味の歌詞があります。「一人で歩いていたとしても、私は孤独ではない」。そう思えることが本当の「つながり」であり、自立なのだと思います。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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