「産後クライシス」は、いつ終わるのか? 妻の機嫌が悪いのは、最初の半年なのか

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産後をこじらせるその前に

取材をするにたびに感じるのは、産後をこじらせる前に対策ができていたなら、夫婦関係の修復にかかる“コスト”はずっと少なくできただろうということです。

夫婦関係が泥沼化したケースの中には、時間が解決したという幸運なケースもあれば、医師やカウンセラーなどの第三者に介入したケースもありました。カウンセラーによると“熟年離婚に悩むカップル”に対して、“夫が産後に立ち返って謝る”ことが問題解決の糸口となったケースもあったそうです。いずれにせよたいへんなコストと労力がかかっています。

産後クライシスの実態は、『産後クライシス』(ポプラ社に詳しい

先ほど紹介した、愛情曲線のグラフをいま一度、ごらんください。この曲線では「愛情が低迷を続けるグループ」がある一方で、「愛情を回復するグループ」があることは既に述べました。

渥美氏はこのグループへの調査も行っています。その結果、このグループと相関関係が強かったのは「夫が育児を行ったかどうか」ということでした。

この事実は、産後に夫婦で立ち向かうことが、対策として最も効果的であるというごく当たり前の結論を私たちに示しています。

渥美さんはこの結論に加え、男性が育児や家事に参加することの“経済的メリット”を2つ挙げています。

まず挙げられるのが、そうした行為が、家族における“保険”となることです。人生には失業や事故、介護などさまざまな困難がありますが、そうした場合に、昔も今も変わらぬ最強のセーフティネットとなるのは家族です。産後の時期に、夫婦が互いに理解を深めることがができれば、その後も夫婦は強い信頼関係で結ばれることでしょう。

次に育児をすることは、家族における“投資”であるとも言えます。父親を含むさまざまな人が育児にかかわることが、子どもに非常にいい影響を与えることは、世界各国の研究者が繰り返し報告しています。多額の金銭を投じる早期教育もいいですが、父親が子どもを育てるのは、それに負けないほど効果的なことです。

夫のおかれている立場もつらい

しかし、ただ「夫も育児に参加しよう」というだけでは、なかなか実態は変わらないかもしれません。会社での長時間労働に加え、さらに家でも家事育児も行うのは、夫にとっては労働強化という面もあります(実際、海外ではこの時期、夫もうつになりやすいことが報告されています)。

では、どうすればいいのか。

次の最終回では、その困難を乗り越える方法を考えていきたいと思います。

※最終回産後クライシス』でギリギリの夫を救う方法」はこちら
 

坪井 健人 思い出レシピ取材班

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つぼい けんと / Tsuboi Kento

大阪生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。朝の情報番組「あさイチ」の立ち上げに参加。NHKスペシャル「#あちこちのすずさん」や東日本大震災プロジェクト「#思い出レシピ」のプロジェクトマネジメントを担当。著書に「産後クライシス」(内田明香との共著・ポプラ新書)

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内田 明香
うちだ さやか / Uchida Sayaka

NHK報道局記者。埼玉生まれ。

早稲田大学政治学研究科修士課程修了。出産を機に待機児童や少子化問題について取材を深める。
産後クライシスの威力を実感。
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