「もちろん渡辺さん以外にも、早くから南インド料理の魅力を言語化していた人はいたと思います。いずれにせよ南インド料理には、魅力的な物語が早くから存在した。
だからその魅力を共有できる人たちがいち早く生まれ、さらには彼らがまたほかの人に魅力を伝える際にも、その物語が使われた。そうやって物語がどんどん再生産され広められていったという点では、民話的とも言えます」(稲田氏)
今なお同じ物語が伝えられている
実際に、南インド料理の魅力とレシピを綴った渡辺玲氏の2003年の著書『カレーな薬膳』を開いてみると、15年前の本なのに内容に古さをまったく感じない。そして南インド料理に関する言葉のほとんどが、いまも使われる南インド料理の説明にそのまま合致する。たとえば、
「オイルは少なめ」「野菜、豆が豊富だから体にいい」「たくさん食べても胃にもたれない」「スパイシーでホットだが、同時にライトでヘルシー」「味つけは意外なくらいさっぱり」「辛味、甘み、酸味という三味のバランスがとれている」「生ハーブで繊細な味つけを楽しむ」「スパイスや各食材の薬効と心身への影響力を考えて料理する」「視覚的にもカラフル」「日本人の感性や食習慣に合致」「食材本来の持ち味を最大限に生かす料理」――といったところだ。
稲田氏はこう話す。
「うちの店でも、南インド料理好きのお客さんが南インド料理を初めて食べるお客さんを連れてきて、南インド料理のことを説明する場面をよく見かけます。そこでもやはり、渡辺さんの紡いだ物語が今なお伝えられています」
食べ物を通して気づかされた、言葉の力。それは言霊という意味合いにも近いかもしれない。あらためてその物語を携えて、ミールスを食べに行こうと思う。
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