医者と患者が「ガッツリすれ違う」根本理由

大竹文雄×石川善樹「行動経済学の力」対談

大竹:4つ目の「限定合理性」は、利用可能性ヒューリスティックのように、合理的に考えるのではなくて、直観的な意思決定をするということをまとめて、限定合理性のなかの意思決定だと行動経済学では考えています。

思考のクセを利用して意思決定を導く「ナッジ」

大竹:こうした意思決定の歪みを、行動経済学的特性を踏まえてよりよいものに変えていく方法を「ナッジ」といいます。ナッジは「ひじで軽くつつく」という意味です。

石川:人間の思考のクセを利用して、合理的な判断を導く手助けをするということですね。

大竹:この本では、医療現場でよりよい意思決定をするために、ナッジをどう使えばいいかということを細かく記しています。ナッジを実践したいという方は、「医療行動経済学の現状」の章を読んでほしいと思います。

この章は、これまでどんな医療行動経済学の研究が行われてきたのか、そして最近の動きなどをまとめています。特に私にとって衝撃的だったのが、終末期治療で、緩和ケアと延命治療のどちらを選択するかという研究です。

「緩和治療を選択する」または「延命治療を選択する」をデフォルト設定した事前指示書、どちらも選択しない事前指示書を、それぞれ別の患者グループに提供しました。すると、緩和治療を選択した患者は、緩和治療がデフォルトである事前指示書を受け取ったグループで77%、延命治療のデフォルトで43%、どちらも選択しない事前指示書では61%でした。

つまり、中立的に選べるものと、片方を選びやすくしてあるものがある場合、選びやすくしてあるほうをみんな選んでしまう傾向にあるということです。

石川:「スタンダードはこれですよ」というのを提示するということですよね。

大竹:そうすることで、かなり重要な意思決定が変わってしまうというのが衝撃的でした。

「どうすればがん検診の受診率を上げられるのか」の章では、大腸がん検診、乳がん検診、肝がん検診の取り組みを紹介しています。乳がん検診については、石川先生が平井啓先生とともに自身の研究成果を紹介しています。これは、受診意図によって、リーフレットの内容を変えて受診率をみた研究です。

受診意図がある人には、受診の手軽さと簡単さを強調し、実行意図が高まるような内容、受診意図はないががんの脅威を感じている人には、罹患可能性と検診の有効性や早期発見の重要性を示した利得フレーム・メッセージ、受診意図がなくがんの脅威も感じていない人には、乳がんの怖さなどを伝えた損失フレーム・メッセージが有効だという結果でした。

タイプがわかる場合、この研究のようにメッセージを変えていくことが、ナッジの次のステップだと考えています。

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