「入院していたとき、受け持ち医が毎日回診してくれるのだけど、わたしのベッドにくると、お医者さんは “How are you doing?”と質問し、その後に”Good”と言うだけで、それ以上診察してくれないの。他の患者さんのところでは、長く話しているようなのに、わたしは嫌われているのかしら」
「あなた、一体、何て返事しているのよ?」
「もちろん、“I am fine thank you”よ」
ニューヨークに留学していたときに聞いた、日本人の間でまことしやかに話されていた話です。英会話スクールで習ったあいさつ言葉で反射的に答えてしまい、それ以外の答えが見つけられなかったのかもしれません。
診療室では「本当のことを伝えられない」
これは笑い話ですが、実際に皆さんも、診察室や病棟での医師との会話で思考停止状態になって、本当のことを伝えられずにその場をやり過ごしてしまったという経験はありませんか?
「お薬をちゃんと飲んでいましたか?」
「はい」
薬を飲むことがあまり好きではなく、まじめに飲めていなかった人でも、このように質問されると、医師の前では、つい「はい」と答えてしまうものです。その返事を聞いた医師は、処方した薬では効果が十分ではなかったと判断し、薬を増量するということになりかねません。
医師は、その日の外来で薬の効果が得られていなかったので、ちゃんと飲めていたかどうかを確認しようとしたのですが、両者がオープンな対話ができていないために誤った判断に至ってしまうのです。
患者としても、本当は薬を服用していないのに「はい」と答えてしまったがために薬を増量され、家庭に持ち帰ったあとに、今後どのように飲めばいいだろうかと悩んでしまいます。このようなボタンの掛け違いが、医師と患者の亀裂をどんどん大きくしていきます。お互いが本音で話し合えないことがいちばん大きな問題です。
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