実際、高血圧、糖尿病、関節炎などの慢性病患者では、40〜70%もの患者が医師の処方どおりに薬を服用できていないという調査(WHO「ADHERENCE TO LONG-TERM THERAPIES Evidence for action」2003年)があります。もちろん、薬好きの人もいますが、少なくない患者に薬を飲むことは避けたいという心理があるのです。
薬を飲むことは本来不自然なこと、薬は本来避けるべきもの、薬を飲み始めてしまうと一生続けなければならなくなる、以前に飲んだ薬でいやな思いをした、薬でかえって体調が悪くなった気がする、薬は副作用があるので怖い、医師はやたらと薬を出したがる、飲むのが面倒だ――。薬に対してこのようなマイナスの感情があると、薬を継続してきちんと飲むことは難しいものです。
ですから、実は薬を飲めていないというのであれば、思い切って飲めていなかったことを打ち明け、どうして飲めなかったのかを話し合ってみてはどうでしょうか? ひょっとすると、担当医師は怒ってしまうかもしれません。しかし、患者の実情を知らないで、誤った情報の下に薬がどんどん増量されてしまうよりは余程マシです。実情を打ち明ける患者が増えてくれば、医師も「患者は処方したとおりに薬を飲んでいない」ということを知ることになります。
患者が打ち明けやすい「聞き方」
そして医師の側も、質問を工夫してみる必要があります。わたしは、慢性病の患者が薬をちゃんと飲んでいるかを正確に知りたいとき、次のように質問をしています。
「今、余っている薬はありますか? もし、余っているのなら、次回までの薬の量を調整しましょうか?」
薬をきちんと飲んでいるかどうかではなく、余った薬があるかどうかを確認するのです。ただ、どうしてもその場をやり過ごすような返答をしようとする患者もいます。
わたしは慶應大学病院で節酒外来を担当していますが、アルコール性肝障害の患者は、
「この1カ月、アルコールはどの程度摂取していましたか」
「いつもと、だいたい同じです」
このように、短い返事でおわらせて飲酒量をごまかそうとすることがあります。こんなとき、わたしは次のように質問を変えてみます。
「それでは、いつもの量がどのくらいなのかを具体的に教えてください。何をどれくらい飲まれましたか? 飲まなかった休肝日は、どれくらいありましたか?」
こうすることで、患者は飲酒量を具体的に間違いなく伝えやすくなります。もし患者が医師との約束を守っていなくても、怒ることはありません。怒ることがオープンに対話をする関係性をつぶしてしまうからです。患者が伝える飲酒量とその日の採血検査の結果を、一緒に照らし合わせるのです。そのことにより、患者と医療者が協働する関係性を創れるだろうと信じています。
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