医者と患者が「ガッツリすれ違う」根本理由 大竹文雄×石川善樹「行動経済学の力」対談
石川:つまり「今のままでいい」ということですね。医師にとっては、正しい知識を非常にわかりやすく伝えているつもりなのに、患者さんがなぜこんなこと言うのか、まったくわからないと絶句してしまう。
大竹:人には、同じことをずっと続けたいという特性があります。現在の状態を続けられないと、すごく損をした感じになるわけです。
また、先延ばしという特性もあります。
変えたくないし、先延ばししたい人間心理
患者の妻:「今決める必要ありますか? 急に言われても決められなくて……」
主治医:「そうですね。では、明日お伺いします。もしそれまでに心臓が止まったときはそのときお尋ねしますね」
〈そして、次の日〉
主治医:「どのようになさるか決めてこられましたか?」
患者の妻:「いえ、なかなか責任が重くて決められなくて……」
主治医:「……」
こんな緊急な状態でも、意思決定を先延ばししてしまう「現在バイアス」が現場では発生している。
石川:医師も困ってしまいますね。でも患者さんや家族も、命にかかわる決断はしづらいでしょうね。
大竹:利用可能性ヒューリスティックの会話例では、主治医が「来週から入院して抗がん剤治療を始めていきましょう」と言うと、患者さんは「先日、新聞で『〇〇でがんが消えた』という広告がありました。それに挑戦してみたい」と。それに対して、主治医が「そんなよくわからないものより、有効と証明された医学的根拠のある抗がん剤治療をお勧めします」と説得しても、患者さんは「新聞に大きく載っていた」と反論する。
石川:これもよくありますよね。医師は標準治療という言い方をしますが、患者さんとしては、「私が欲しいのは標準ではなくて、特別な治療なんだ」という思いがあるのだと思います。そんなときに、効果がありそうな治療の広告を見てしまうと……。