医者と患者が「ガッツリすれ違う」根本理由

大竹文雄×石川善樹「行動経済学の力」対談

行動経済学で「医者と患者のすれ違い」を研究したといいます(写真:尾形 文繁)
「ここまでやってきたのだから続けたい」「まだ大丈夫だからこのままでいい」「『がんが消えた』という広告があった」「本人は延命治療を拒否しているが、家族としては延命治療をしてほしい」
医療現場では、患者もその家族も意思決定に悩み、医師も患者の対応に困ってしまうことが多い。
医者は正しい情報を伝えているつもりなのに、なぜそのようなことが起こってしまうのか? 人間心理のクセに注目し、行動経済学的観点から医療現場での意思決定を分析した『医療現場の行動経済学』を執筆した、大阪大学大学院経済学研究科教授の大竹文雄氏と、予防医学研究者の石川善樹氏がフォーラムで対談。医療現場で起こる問題になぜ行動経済学が役に立つのかを語った。

医師も患者も「系統的に」間違える

石川:大竹先生が編著者となり私も執筆陣の一人となった『医療現場の行動経済学』には、『すれ違う医者と患者』という副題がついていますね。

『医療現場の行動経済学』の「はじめに」を無料公開しています(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

大竹:実は、何人かの医師から反対されました。「医師はちゃんとやっている、すれ違っているのは患者だ」と(笑)。

しかし、この本の大きなテーマは「医師にもバイアスがある」ということなんです。行動経済学におけるバイアスとは、合理的な意思決定から系統的に逸脱する傾向のことをいいます。

石川:患者さんだけが間違っているわけではないということですね。

大竹:本書のプロジェクトのそもそものきっかけは、日本行動医学会のシンポジウムで、執筆者の一人である医師・小川朝生先生のお話に衝撃を受けたことでした。小川先生曰(いわ)く、「日本のインフォームド・コンセントというのは、医師が患者さんに正しい情報を伝えれば、患者さんは正しく判断できるんだという信念でなされている」と。

これは、伝統的経済学の合理的経済人の発想そのものです。行動経済学が20年以上発展してきて、人は正しい情報を伝えても正しく判断できないということがわかっています。ましてや患者さんは切迫した状況にあって、心理的にも苦しい状態にある。そんな患者さんに対して、正しい情報さえ与えれば正確な判断ができるという発想で医療が行われているということに、私はとても驚きました。

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