前回(「『小賢しい患者はキライ』な医者との闘い方」)、医療の現場では頑固親父のような、患者に対して高圧的な医師と、医師の言葉に従うだけではなく、自ら情報を収集して自律しようとする患者との間に、軋轢が生じている現状を述べました。
患者と医療者の関係性が大きく変わろうとする移行期に生じている混乱ではありますが、とはいえこの混乱を最小限にくいとめることが必要です。
「患者と医者」の歴史を振り返る
なぜ、患者に高圧的な態度をとる医師がいるのか。患者はどのように対処すればよいのか。医師と患者の歴史的な関係性を俯瞰的にみることで、それを理解し、何らかの対処ができるのではないかと考えます。
医師と患者、両者の関係性がどのような歴史的経過をたどってきたのか、そして、それが現在の関係性にどのように影響し、今後どのような方向に向かっていくのかを探ってみましょう。
医療は、人類の歴史とともに始まったとされています。もっと厳密に言えば、ヒト以外の動物にも医療の原型は見られます。チンパンジーが互いに毛づくろいする時に、相手の肉体の欠陥に注意し、小さな腫れものや傷をなめてきれいにする行為がみられるのだそうです。
原始の医学では、医学と宗教、経験(医師)と宗教(僧侶)と呪術(呪術師)が渾然一体となっていました。その後、医療の経験がしだいに積み重ねられ、迷信から解き放たれた合理性を重んじる「ヒポクラテスの医学」へと発展します。近代になり、科学の黎明期を迎えると、科学としての医学が急速に発展します。そして、科学としての医学を誰もが利用できるように、社会のシステムとして医療保険制度が作られてきます。
医療における医師の役割も、この歴史的な経過とともに変化してきたのです。医師の思考法や患者への接し方、患者の医療や医療者の受け止め方も、歴史的な経過が積み重なる形で、現在にも影響を及ぼしているのです。
すなわち、科学が進んだ現代でも、すべての医療が科学的に解決するわけではありません。どんな病気でも、患者は“奇跡を起こすように治して欲しい”と、呪術師としての医師の役割を期待しています。
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