東京医科大の入試男女差別が示す深刻な実態

日本は時代を逆行して後進国になるのか

第4に、女性の地位向上には行動学的な側面からの分析も有益である。人類の本能における女性差別の根深さは、どれほどであろうか。

遺伝子の98.8%程度が共通し、われわれに極めて近縁であるチンパンジーは、オス優位社会を構成する。序列の低いオスでも、メスより優越的に振る舞うのが通例であり、いわゆるボスザルは決まってオス(アルファ・オスと呼ばれる)である。 チンパンジーと人間を兄弟とすると、ゴリラはこの両者のいとこ、オランウータンは遠縁の親戚、ニホンザルは赤の他人の関係になる。

そのチンパンジーから見て、唯一人間よりさらに近縁の動物が、ボノボである(遺伝子は約99.6%が共通)。ところが、 このボノボの社会はチンパンジーとは大きく違い、平等性が高く、オスだからといってやたらに威張る者はない。オランダ・アーネムのブルゲルス動物園のチンパンジー研究で名高いフランス・ドゥ・ヴァールは、ボノボ社会はgynecocracy(女権社会)であるとした。オスメスともに平和主義を重んじ、ムラ間の「戦争」も観察されていない点もチンパンジーと異なる。

霊長類研究が進むにつれ、同一の種であっても、群れごとに異なる行動特性が存在することがわかってきた。ゲラダヒヒは子殺しをしないのが定説であったが、それまで観察された群れとわずか数十キロメートル隔たったところのグループは子殺し習慣を持つと判明した。 社会的行動は種内でも極めて可変性に富む。チンパンジーとボノボのように、わずかでも種が異なれば行動の差は甚大になりうる。

教育・社会環境の整備によって差別意識は変わる

すると、仮に現生人類の一部が本能的に男女差別を好むとしても、その淵源は意外に浅く、教育その他の環境で容易に修正できる可能性がある。また逆に、環境によって深刻化することもある。それを踏まえ、教育および社会環境を整えることが、女性差別の是正に重要である。

環境変革には、法に基づく強制が有効であることが明白である。 1985年以前、わが国の女性は、男性と同じ仕事をする機会を得るだけでたいへんな努力を強いられた。賃金格差もあまねく存在した。大きな転機は、「男女雇用機会均等法」である。運用面での男性優遇はなお残るが、制度上の差別は減少していき、企業の意識は大きく変わった。

さて、人種を含む差別の是正に米国の取った政策は、「アファーマティブアクション」である。典型的には、組織内の女性や黒人の比率の下限を設ける。弊害の指摘もあるが、効果は大きかった。一方、日本にも独自の「ポジティブアクション」があるが、浸透しているとは言いがたい。 米国のマイノリティ優遇策には、政府の強制するもの、政府の承認するもの、民間の任意のものの3種があり、政府の強制するものが、反発を受けつつも変革を牽引したのである。

わが国のポジティブアクションは、企業や大学などに自発的取り組みを促すもので、強制力はない。 いったん事例ができれば、社会はそれに対応する。女性活躍を国是とするなら、時限的な施策として、より強力な国家による介入が検討されてよいかもしれない。その弊害を指摘するのはたやすいが、病状が深刻であれば、副作用を覚悟して薬を使うべきケースもあろう。

最後に一言、男女定員問題の「本丸」を指摘しておく。男女別定員のある大学は少ないが、都立高校は逆にほとんどがそうなっている。入試は女子に厳しく、男女の最低合格点に「著しい格差」がある。 成績順に合格させると男子生徒があぶれることを恐れて、こうなった。不公正で、放置すべきでない。都立高校の男女格差問題はいずれあらためて論じたい。

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