第3の問題は、この入試差別の発生時期である。
内部調査委員会報告によると、得点の加減は2006年ごろに始まり、しだいに「洗練」されていったと考えられる。つまり、この差別は前世紀の遺物ではなく、今からさほど遠くない時期に誕生した。 東京医大の記者会見で、担当理事は急激な時代の変化についていけなかった旨の弁明をしている。だが実際は時代に取り残されたのではない。それまでなかった差別を今世紀に新たに生み、時代を逆行させた。このことを自覚すべきである。
これは危険な兆候である。女性活躍を唱えるのであれば、国の各機関が積極的に介入し、時代の逆行を止める必要がある。 問題はより広く蔓延している可能性もある。 ほかの大学医学部でも同様のことが行われているとの告発が、インターネット上などで複数見られる。文科省は、全国的な調査を行うと発表した。事の重要性に鑑み、単なるアンケートではなく、委員会など大学とは独立した組織を置き、客観的調査を行うことが望まれる。今後の調査結果に注目したい。
むしろ逆行する動きが広がっているのではないか
だが、時代逆行の広がりは大学医学部にとどまらない。 大学生の女性比率は先進国ほど高い。わが国でも上昇が続き、平成30年度学校基本調査では45.1%で過去最高を更新している。米国などに続いて男性を上回る日が来るであろう。このことに社会が対応してゆかなくてはならない。
ところが昨今、企業の新入社員採用で、優秀者が女性に多いことを嫌い、男性に「下駄」を履かせて採用しているという声が聞かれる。 女性が実力の向上により大学および職場でその存在感を増していることに対し、これを抑圧する動きが見え始めたことは、看過できない。企業が建前では女性活躍を唱えつつ、男性を「カサ上げ採用」しているとすれば、その思想は、まさに東京医大と同根である。
女性の地位向上は、世界各地で文明とともに進んできた。しかし日本はただでさえ賃金格差、無償労働(主に家事労働)比率、管理職比率、セクハラ問題などで、ジェンダーイコーリティ(男女平等性)の後進国となっている。 これに加え、昨今の報道を見れば、差別やセクハラを正当化したがる人々は権力機構の各所に「健在」で、むしろ力を増している懸念がある。東京医大の問題は、この大きな文脈の中でとらえる必要がある。
本件の海外の報道では、日本の後進性があらためてクローズアップされている。たとえば英フィナンシャル・タイムズ紙は世界経済フォーラムのジェンダーイコーリティで日本は114位まで落ちたことを、英BBCは政治家、政府高官、管理職の女性比率が12.4%にすぎないことを指摘している。日本は女性の人権が後退してゆく特異な国だという不名誉を、国際社会で被っていることに、相応の危機感が必要である。政治、行政、司法に併せて、企業内を含む各種ガバナンス機構が一丸となって、時代の逆行を防ぎ、さらには進歩を促進しなくてはならない。
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