高齢運転者による交通事故の報道が目を引く。特に印象深い事例3件を振り返ってみる。
1つは、7月25日横須賀市内の横浜横須賀道路下り線を、70歳の男性の運転する乗用車が約10キロメートルを15分間にわたり逆走して、対向車7台と衝突し、6人が重軽傷を負った事故である。
反対車線を走る車(逆走車と並走する)が撮影した動画が、テレビで報道された。映像は衝撃的で、車は次々に押し寄せる順走車に接触しながら、速度を緩めず、車輪の1つが脱落し停止するまで逆走した。何度も衝突し、物理的に走行不能となるまで走り続けた運転者の心理を、理解することは容易でない。
仮説として考えられるのは「固執」である。人は強いストレスにさらされると、不合理であっても特定の行動に固着することがある。このことは、ほかの動物にもみられる。もしかすると運転者は、次々と対向車がぶつかってくる理不尽な状況を早く抜け出したいと願うあまり、かたくなに逆走を続けたのかもしれない。
悪意はないが重大事故につながってしまう
2つ目の例も衝撃的である。
5月28日、神奈川県茅ヶ崎市の国道1号で90歳の女性が運転する乗用車が、交差点で歩行者4人を跳ね、1人が死亡、3人が重軽傷を負った。目撃者によると、すごいスピードで車が横切って歩道に突っ込んだ、ブレーキをかけた様子はない、とのことであった。運転者は事故後、「信号は赤だとわかっていたが、歩行者が渡り始めていなかったので通過できると思った」と述べている。
赤信号と知りつつ止まらない法令認識は、その一事だけで運転不適格である。また、歩行者を視認しながら通過できると思い、4人に衝突してしまう運転能力も不適である。法令上も技能的にも、致命的な誤りを重ねている。このような運転者に委ねられては、自動車は凶器となる。
一方で、報道によると運転者は穏やかな性格で、大きな被害を出したことに心を痛めているという。急いだ理由は、見送ってくれる人をいつまでも立たせてはまずいと感じたためとされる。悪意なき重過失というべきか、やり切れない思いが高じる。
3番目は、2月18日、東京都内で、78歳の弁護士の運転する車が急発進し、歩道の男性を巻き込んで店舗に激突、被害者は死亡した事件である。警察は、運転者が誤ってアクセルを踏んだため、停車位置から約200メートル暴走し、慌ててハンドルを右に切って歩道に突っ込んだとみているという。
ブレーキとアクセルを間違え、加速に動揺してさらに強く踏み込んだ事故は、ほかにも報じられている。ブレーキを踏むべきところ、逆にアクセルを、しかも力いっぱい踏んでは、危険というにも余りある。
こうした報道は、高齢運転者による事故への恐怖をかき立て、問題の大きさを印象づける。では、統計的にはどうか。
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