高齢者の異常運転事故は「現代の不条理」だ

逆走や踏み間違いへの対策を早急に行うべき

では、高齢者による「不条理」事故の対策をどうするか。

当然重要なのは、免許の自主返納や更新停止であり、取り組みは強化されつつある。さらなる努力が切に望まれる。ただし、以下の理由から、これだけに頼るのではなく、他の対策も合わせて行う必要がある。

マクロ的に見ると、高齢層の免許保有率は今後大きく上昇する。返納や更新停止が定着しても、保有率を戦前生まれの世代並みに引き下げることは非現実的である。したがって、高齢免許保有者全体の抑制以上に、「不条理事故」を起こす危険なケースで選択的に返納などを加速する必要がある。だが、認知症に関しては、問題があるほど返納の決断が難しいというジレンマがあり、本人の自覚や家族や周囲の努力でこれを徹底することは容易でない。

ミクロ的に見ると、返納には副作用があり、抵抗を呼ぶ。特に地方に居住し、生活上運転が必要な人にとって、返納は深刻な問題である。

また、免許更新停止にしても、技術的に認知症と診断されなくても異常運転につながっている事例が多いこと、頻繁な検査が難しくタイムラグが生じることなど、多々限界がある。

技術の組み合わせで事故を防止できる

したがって、免許の抑制以外に、安全技術との合わせ技が必要である。自動運転を待たずとも、現在可能な要素技術の組み合わせでできることも少なくない。

今日、自動ブレーキにより、事故のうち「追突」は有意に減少しつつある(先に挙げた3番目の事例では、作動条件外で機能しなかったが、このケースは自動ブレーキの問題ではなく、後述の踏み違え対策による防止が望まれる)。赤信号を認識し運転者に警告を出すことは、すでに可能である。さらに機械的にブレーキを作動させるとなると、誤作動の責任などの課題があり、もう一段の技術革新が必要なので、積極的な検討が望まれる。

踏み違え事故に関して、交通事故総合分析センターのリポートは、分析した28件のうち、「慌て、パニック」を原因とするものが11件、「高齢」を原因とするものが8件であったとする。これから特に、「誤ってアクセルを踏み、加速にパニックを起こして床まで踏み込む」という行動パターンを認識して制動する技術が望まれる。居眠り予兆判定などの例もあり、人間の行動特性の判定技術は実現可能である。これは、若年運転者にも有益である。

逆走防止についても、進入時の標識判定のほか、GPSによる車線判定、対向車の状況などを総合すれば、対策は複数可能である。

これらの技術と能力に応じた限定免許の組み合わせも考えられる。オートマ限定免許のように、特定の安全装備のある車、速度や加速が抑制された車の限定免許はありうるであろう。

経済面の考慮も重要である。安全装備の多くは、技術的・経済的な理由から、「後付け」ができず、製造時に組み込まざるを得ない。有効な技術が開発されても、新車に買い替えが必要となると、普及に時間がかかる。

高齢運転者の安全装備付き車両への買い替えに公的補助を行うことが考えられる。一部の自治体でその取り組みは始まっているが、車の買い替えとなると、数万円程度の金額では効果が限定的である。国レベルの政策としての検討があればたいへん喜ばしい。

財源を使うといえば抵抗があるかもしれないが、高齢運転者に対象を限れば、エコカー減税などよりはるかに少ない財源でまとまった金額の補助が可能である。地方通貨と連動して地域活性化に役立てるアイデアも考えられる。そのような支援は高齢運転を奨励し免許返納を妨げることになる、との批判があるなら、免許返納に支障があると公に認定されたケースから導入することも考えられよう。

技術革新と、社会制度が相まって、高齢者の不条理な事故が撲滅されることを望みたい。

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