「無駄話」を嫌うと人間関係はギスギスする お互いの心を豊かにする効能も

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なにより、無駄話ができる、雑談ができるということは、それだけの話題を持っていること、知識を持っていること、人生の経験をしていることの証拠でもある。

例えば相手を訪問する直前に、交通事故を見たとする。「見ましたよ」と言うだけでは雑談にならない。それから、自動車の安全性について、あるいは、無人自動車の現状について、さらには人工知能やロボットの話、加えて、技術の将来性などについて、どんどん脱線して話をすれば、どれだけ楽しいことか。

あるいは、仕事の話から、「日本経済が低迷したのは、アメリカ式経営を安易に取り入れたからではないか。日本人の強さは昔から、外国から文化を取り入れても、必ず日本化してきたのに最近はそれができていない」など、得々と持論を展開していってもいいだろう。

そのような雑談、無駄話をするためには、相当な知識の蓄積がなければならない。雑談や無駄話は蓄積がある証拠でもあると言える。

無駄話によって相手と気持ちが通じ合う

雑談、無駄話ができる人は、実は「話の達人」「話の巧者」「場を楽しくする名人」。実際のところ、無駄話、雑談のほうが、本筋、本論よりも相手の心を伸びやかにし、本当の姿、本当の心、本当の思いを出させやすくする。その無駄話によって、相手と気持ちが通じ合う。意気投合する。議論が弾み、お互いの心が豊かになる。

孫子の兵法ではないが、やはり、「彼を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」。雑談しながら、相手を知って距離感を縮めることが、ことを成就させる近道。雑談やら、無駄話があるから、それで、本題の議論が進む。それで、議論が踊る。そして、それで本題がまとまる。雑談も無駄話も、決して雑でも無駄でもないということ。

ところで、雑談や無駄話ができないような人は、家庭や仲間うちでは、とくに気をつけたほうがいい。結論ありきの話し方を避け、家庭を、仲間を和ませることに努めるべし。会話の「過程」を楽しむのだ。

家庭や仲間の集まりは、ある意味「楽屋」であって「舞台」ではない。いまや舞台でも、適当なアドリブ、いわば、臨機応変の無駄話や雑談が求められる時代だというのに、ましてや楽屋で決まりきった話をするのはいただけない。無駄話、雑談で周囲を和ませたり盛り上げたりできないなら、もう、「楽屋」にはいられなくなる。

雑談力、無駄話力を身につけること。これは年齢を重ねるごとに心掛けなければなるまいと感じている。無駄話、雑談こそ、人生の後半を充実させる「秘密兵器」だと思う。とくに50歳を過ぎた人たちは、今からその力をつけていこうではないだろうか。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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