日系ホテルの雄・帝国ホテルの130年続く流儀 受け継がれる渋沢栄一の「創業の精神」

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10代目の定保英弥社長(筆者撮影)

また、帝国ホテルの財務について分析するうえで欠かせないのが不動産事業だ。1983年、日本初の商業施設とオフィス、ホテルの複合施設として帝国ホテルタワーを開業した。経済環境など、外的要因の影響を受けやすいホテル事業は、安定的に利益を確保し続けるのが難しい業態だ。

一方で、設備の刷新や維持管理などコストもかかるため、資金の確保は必要不可欠。そうしたなかで、帝国ホテルタワーによる安定した賃料収入は高い利益率をもたらし、無借金の安定した財務を実現している。「帝国ホテルタワー開業当時の経営陣には感謝したい」という定保社長の言葉からも、不動産事業の財務に対する高い貢献度がうかがい知れる。

オリンピックを控え「東京ホテル市場」の競争は激化

東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控え、観光庁によると、2017年度に日本を訪れた外国人旅行者の総数は2977万人と3000万人に迫る勢い。政府は東京オリンピックが開催される2020年に外国人旅行者を4000万人に増やす目標を掲げている。

ただ、東京では外資系ホテルの進出も進んでいるほか、2019年にはホテルオークラ東京や東京會舘がリニューアルオープンする。オリンピックで外国人観光客の増加が見込める一方で、競争環境は一段と厳しさを増すことが予想される。そうしたなかでも、定保社長は「基本的な部分でサービス向上に取り組んでいくだけです」と焦りはない。

「基本的なサービスとは、すなわち本質の追求であり、一朝一夕にできることではありません」。その本質とは、渋沢栄一が従業員に対して語った「世界中から集まり、世界の隅々に帰っていく人たちに、日本を忘れずに帰らせ、一生日本を懐かしく思い出させることのできる、非常に大切な仕事」との言葉そのもの。開業以来受け継がれ、積み重ねてきた結果がブランドとなり、それがリピーターを呼んで安定した収益を支えている。

そしてさらにその先、オリンピック後について定保社長は「国内は少子高齢化の影響で確実に人口は減っていく。ピーク時は年間1200件を超えていた結婚式数も現在は950前後です。これからは次世代のファンを増やすために、今まで以上にサービスの充実に努めていかねばなりません」と話すように、危機感があるのも事実。

生き残りをかけ、新規事業も選択肢のひとつとしている。「ブランドの希釈化につながるようなことは絶対に避けなければなりませんから、よい話がなければ無理はしません。しかし、ブランド価値の向上につながるようなチャンスがあればぜひチャレンジしていきたい」と、慎重に検討していく構えだ。

「ホテルはその国の民意や文明度を示すもの」だとすれば、帝国ホテルはこれからも、その「民間外交」の最前線で「日本の顔」としての役割を担っていく。

山口 亮 帝国データバンク 東京支社情報部取材編集課

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やまぐち りょう

1979年、山形市生まれ。業界紙記者を経て、2007年株式会社帝国データバンク入社。東京支社情報部所属。企業の信用情報や倒産情報の取材を担当。専門は繊維・アパレル業界、広告業界、食品業界。

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