日本の近代を支えた「渋沢資本主義」とは何か 日経新聞の名物記者が考える「分岐点」
「日立・三菱重工 統合へ」──。
白抜きの横一本見出しがトップを飾る2011年8月4日付の日本経済新聞朝刊は、衝撃的だった。中見出しには「売上高12兆円超」「原発事故で環境激変」とある。同年3月11日の東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原子力発電所事故がもたらした政治・経済環境の緊迫が、日立製作所と三菱重工業という日本を代表する企業の経営統合という歴史的な大ニュースを生み出したことを示していた。
新聞記者を長くやっていると、とりわけ企業取材をやっていれば、記者が夢見るニュースとは「一本見出し」ですべてがわかるニュースを書くことである。「日立・三菱重工統合へ」というニュースがまさにそれだった。
「統合対象は原子力や火力などの電力プラント、水処理や再生可能エネルギー分野、鉄道車両など社会インフラと、情報制御などITを中心に幅広く協議。2013年4月をメドに統合新会社を設立する方針だ」と記事のリードにある。
いまや日本経団連(日本経済団体連合会)の会長となった日立製作所の中西宏明社長(当時)は、記事が掲載された4日早朝、記者団に囲まれ、「統合協議入り」について質問されると、「はい」と答えて、車中の人となった。
完璧なスクープから数時間後に事態は暗転
どこからみても肯定のコメントであり、日本経済新聞の完璧なスクープだった。しかし、数時間後に事態は暗転する。
午前中に中西宏明社長と大宮英明三菱重工業社長(当時)が、「そのような事実はない」とコメントを出し、夕方に予定されていた記者会見は急きょ、中止となる。以後、日立製作所、三菱重工業の関係者で、この問題について明確なコメントをする人はいなくなる。
その衝撃度において1970年の八幡製鉄・富士製鉄の合併を上回るとさえ言えるニュースは、こうして歴史の闇に沈んでいった。新聞社の訂正記事もなく、会社側の修正発表さえない、合併ニュースとはいったい何なのだろうか?
自民党が政権に復帰し、安倍晋三内閣がアベノミクスという異様な金融緩和を伴う景気刺激策を打ち出す1年半前のことだった。また東芝の粉飾決算が表面化する4年前のことでもあった。
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