「農家の直売所」が日本の農業を変える仕掛け 農業総合研究所トップにロングインタビュー

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及川:はい。その結果、今期は赤字になっています。今年はちょうど物流の変革をやっておりまして、東京の大田市場の中にセンターを作りました。農業の流通をやる上では、大田にセンターを作れたことは非常に大きいです。全国の野菜と果物は大田市場に集まってきます。この便を我々の流通にも組み込むことができますので、流通コストを下げることが出来ているわけですね。

村上:結果、流通量も大幅に上げられるわけですね。競合するJAのメリットはボリュームのある取引が出来ること、一方、道の駅など直売所にはスケーラビリティがない。そこへ、中庸を行く御社がスケールという強みを持ち始めると、JAの代替としての存在感は増してくる。もしかしたらJA以上の存在になるかもしれないですね。

及川:そういう見方もできるかもしれないのですが、我々としてはJAを倒そうみたいな野心はなくて、あくまでも補完機能だと思っているのです。例えば、我々のインショップのコーナー「農家の直売所」はあくまでも委託販売システムで受発注がないため、必ずしも毎日決まった品目のものがコーナーで販売されるという約束はないわけです。たまたま、その日はトマトやキュウリなどの野菜がないということも起こり得ます。

それを考えると、我々がスーパーの青果売場のプロパー部分(市場流通)の50%以上のシェア)をとることはないのではないかと思っています。我々の「農家の直売所」コーナー戦略で、獲得できるシェアは、最大でも20%前後ではないかと見立てています。では、どうやって成長するのかといったら、スーパーに我々のコーナーを導入してもらい、これを橋頭堡として、我々はスーパーの他の棚へも進出していくのです。

例えば、市場から買ってくる野菜と果物に対抗して、我々を経由する野菜をPB商品としてはめ込むということも可能です。毎日物流がいっているわけなので、新たに発生する物流コストはゼロということです。

ここが我々の近々の目標でありまして、我々のコーナーでは20%のシェアしか取れないのですが、卸売り機能をつけることでスーパーのシェアをもっともっと取っていくという発想ですね。

物流の妙に隠された競争力

村上:生産者の高齢化が進んでいる中で、若い方が新たに農業に挑戦するという方向性も、新たに生まれているように思います。一方で、農業を大規模化していくという方向性もあります。今後も生産者の在り方に変化が生じることがあると思うのですが、そういった潮流に対して、御社の立ち位置はどういう風に変わっていくのでしょうか。

及川:農業を効率良くやっていくには大規模化していくのは正しい方向性ですので、一面では賛成ですが、我々としては大規模化しないと農業をやっていられない世界は作りたくないと考えています。

村上:大規模経営の農家はある程度自分で経営が出来るわけですが、小規模な農家でもいいものを作れる人もやっていけるようなプラットフォームを目指すことで、農業を産業として保全したいということですね。

及川:その通りです。

村上:なるほど。だから、その実現したい世界に向けて、まず小規模の農家の方に使ってもらうために、彼らの手間を省くサービスの準備をしているのですね。中期的な競争力の構築にもつながりますね。

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